カモシカと青空 第八話「街並みの美学」芦原義信[岩波書店 同時代ライブラリー] by カモシカ書店

2014年5月、大分市中央町に誕生したカモシカ書店
古本を中心としながら新刊も取り扱い、カフェとしても気軽に利用できる癒しの場。
手作りケーキやこだわりのコーヒー、水曜日のネコというフルーティースパイシーな珍しいビールもお楽しみ頂けます。
定期的に本だけに留まらない知的好奇心を刺激するイベントを開催。

そんなカモシカ書店の店主、岩尾晋作くんのコラム第八話です。
オムニバス的に一冊の本を紹介していく人生の短編集。
どうぞ、お楽しみください!

岩尾晋作くんへのインタビュー記事はこちら。

なお、紹介されている本は実際にカモシカ書店で購入することができます。

※すでに売切れや非売品の場合もありますので、ご来店前にカモシカ書店へお問い合わせください。

 

第八話「街並みの美学」芦原義信[岩波書店 同時代ライブラリー]

 

平日の街並みが好きだ。

生活があり、学校があり、仕事があり、
道急ぎ目的地へ向かい、休息と腹を満たすための食事をして、
義務や権利を終えれば帰っていくこのリズム。

多数派とそれ以外のさまざまな旋律があって、複合して同時に演奏される重層的な音楽である。
変調やアクセントはもちろんある。
飲みすぎたり、感情的になったり、恋をしたり、別離があったりするものだ。
精一杯生きている限り、調和と変調はランダムに繰り返されるだろう。

4月は文字通り劇的に変調が訪れる季節である。
私自身は年度が変わるだけで、節目といえば節目だが、会計上の節目は年末であるから、4月に「さあ始めよう」ということは何もない。
いくつかの取引先がバタバタと慌しくなるのを遠くの風の音を聴くよう仰ぎ見るだけのことである。
法人化すると違うのだろうが、それでも私自身が転勤することは現状ではありえないし、昇進も異動も、なにも考えないのである。

しかし私とはずいぶん違い、そんな平穏でないところもけっこうあるのだ。
そのことを今年完全に忘れていた。
カモシカの前は普通に勤め人をしていたのだから、当然前述のことはこの時期身の回りの茶飯であった。
だれがどこいってどうなるだとか、関係の深い人なら喜んだり落ち込んだりしたものである。
まあ一年走りまくって、過去の習慣がすっぽり抜け落ちてものごとを考えていたということだろう。
(これは気をつけないと結構危険なことである。また別の話になるので詳述は避けるが、要するに自分と自分の環境をなるべく客観視すべきだな、てことです)

4月、私の愛する平日の音楽は流れなかった。
街並みはざらつき、踊る、フェスティバルだ。
新しく、希望が瞬き、残酷に、根を絶たれ、ざらつき、踊る。
気騒がしい、とでもいうだろうか。私はそこら中に、別離の匂いを嗅ぎ取っていた。

さて今日はそれほど前置きが長くないのだが、「街並みの美学」という書籍を紹介したい。
私は美しい街に住みたいと兼ねてから望んでいるが、じゃあそれはどういう街か? というとなかなか説明に困ることがあるのだ。

西荻みたいな街、アヴィニョンみたいな街、湯布院の一角のような街、そういうことを抽象化して普遍的に語る言葉が欲しかったのである。
「街並みの美学」はまず日本文化の特性を客観的に把握するために西洋との比較から始めるのである。
石、岩、砂、木、と構成要素から建築物、そしてそこに居住する人間の価値観や習性を解き明かすのである。
書きながら思い出したがこの本はたしか新潮社の新規採用試験で文章問題として出た、気がする。
自慢だが私は当然試験に受かったので(面接で落ちたが)、将来出版社(斜陽産業だが)に勤めたいと思っている人は一読してもいいのかもしれない。でももう10年前の話だから別に採用試験のためなんかに読まなくてもいいのかもしれない。

今回私の結論を先に言うと、美しい街に住みたいのである。
私は平日のこの町、大分市中央町が好きで、土日のこの町はあまり好きになれないでいるのだ。
土日も平日のような重層的な音楽を私は望む。それがこの土地の必然であるからだ。
何でもいい場所貸しのような意志なき使い方をされる目の前の広場に寂しい思いをするものである。
イベントで騒ぐことが街として有効な過ごし方だろうか?
もちろんそういうときもある。でもそれはその土地の必然や目標を持った意志から生まれる何かで
あるべきである。

ただ広いから使おう、ということでは子どもや子どもっぽい人の便宜的なステージになるだけで、町として活動しているとはとてもいえないのではないだろうか。便宜的なステージは広くて使いやすければどこでもいいからである。

ましてや、商店やカフェの前で、まったく関連性のない風景を生んでしまう土日のイベントの多くは、町の良さを、潜在的な魅力を、街並みの音楽を、殺してしまいかねないのではないだろうか?

私の思う美しい大分は、生活と別離と出会いの、重層的なフェスティバルである。
そこに温泉があるとなお、美しい。

私は駅前から城址公園ぐらいまで、全部温泉の運河になればいいとときおり思うのだ。
商店街はみんな足湯を通して、入口で靴を脱いでちゃぷちゃぷ歩くような通りになったら楽しいなー。

まとまらないのでこのへんでやめておくが、
私は本屋のある街がもっとも好きなのは付け加えておこう。

「街並みの美学」
芦原義信[岩波書店 同時代ライブラリー]
500円

 

 

ー カモシカ書店 ー

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1件のフィードバック

  1. 分析されたデータと傾向の一致モノは説得力があってホント面白いです
    ちなみにゲシュタルトってこのように引用されるの普通なのでしょうか、興味深かったです
    人は触れる全てのものに、意識的にも無意識的にも影響され続けていることを考えると、街並みも然り、慣れた環境こそ見直してみると、心の持ち方が変わることもあるのかと思いました
    カーテンでも変えてみるか、色彩を分析吟味して

前田 まさみ へ返信する コメントをキャンセル

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