キューティー対談。菅章×裏正亘の場合。

2月2日(日)に行なわれた『キューティー&ボクサー』上演後のキューティー対談。

大分市美術館館長の菅章氏とART PROJECT OITA 代表である裏正亘氏によるキューティー??な対談の模様をお楽しみください!

ギュウチャンをよく知る2人だからこその裏話まで!

 

裏正亘(以下、裏):みなさん、こんばんは。素晴らしい映画の後にまだ余韻に浸りたいんだろうなぁ、と思いつつ、ちょっとお話をさせて頂きたいと思います。the bridgeというフンドーキンの倉庫をリノベーションしたギャラリーとカフェで篠原有司男さんに去年、トークイベントをしてもらいまして、ART PROJECT OITA 2013 ~循環~「大分現代美術館」の会場となったフンドーキンマンションでも篠原さんの作品を展示させて頂きました。色々とご縁を感じていたところ、このような機会を頂けて嬉しく思います。よろしくお願いします。

菅章(以下、菅):大分市美術館の菅でございます。篠原さんとは25年くらい前にお会いして、一番大きなキッカケは、ネオ・ダダ ジャパンというのをアートプラザの会館記念日にボクシングペインティング始め、いろんな形で関わってもらい、それ以来お付き合いをさせて頂いてます。私もこの映画をもの凄く楽しみにしておりまして、大分で上映するとしたらここ(シネマ5bis)しかないなと。シネマ5さんがやってくれるしかないな、というふうに思ってたんですけど、まさかこういった対談になると思いませんでした。よろしくお願いします。

裏:館長、今回、映画観ていかがでしたか?

菅:そうですねぇ。感想、、というよりも感動ですね。小林秀雄が言ってたんですけど、「感動すると心が一つになる。世界が一つになる。とても言葉が出ない。」ということで余計な話は出来ないんですけども。今日、実は3回目なんですね。DVDで試写をしたんですけど、劇場で観て、素晴らしい映像と音楽と、何よりもキューティーとブリーの2人が生身で、彼らの生活、それからアートそのものが、このドキュメンタリー映画に凝縮してるな、と。言葉としてはそれが全てだと思うんですけど。裏さんはどうでしたか?

裏:実は同じく上映前に2回程、DVDで観まして、ようやく映画観で観れたな、と。内容もとにかく素晴らしいんですけど、映画っていいなって。どうしてもアート、美術ってギャラリーで体験していくものだという感じなんですけど、映画の中でさらにアートや美術を一歩踏み込んだ形で体験出来る素晴らしい時間だったな、と。

菅:この監督、ザッカリー・ハインザーリングという中々、覚えにくい名前でようやく覚えたんですけどね。まだ29歳。ドイツ系なのかな?アメリカで活躍してる29歳の監督で初めて長編の映画を撮ったという事なんですけども。アカデミー賞候補でここはあまりアカデミー賞候補の映画はやらないんですけども。笑。アカデミー賞候補になるくらい素晴らしい映画だったという事と、4年か5年かけてるんですよね?

裏:その間もずっと篠原さんと年2回くらいお会いして、今撮ってるだよっていう話は聞いてました。

菅:その4年か5年の間に、おそらく2人が変わったんだと思うんですね。2人はもちろん変わらない部分もあるんだけども、映画として撮る上で一番大きく変わったのは乃り子さんかな、という風に思いますね。

裏:最後の方の雰囲気がだいぶ変わってましたね。

菅:僕は89年に初めてお二人に会いにNYへ行ったんですけども、その頃、ギュウチャンっていうのは、本当にスターで。60年代、最大のスターじゃないかな?戦後美術の。それ以前だと、岡本太郎が居たんですけども。岡本太郎に続くのはギュウチャンしか居ない。で、ネオ・ダダからポップアート、70年近くまで花魁とか浮世絵とか。とにかく、いろんな話題を全部かっさらった凄いアーティストだったんですね。そのアーティストがNYに行ってから、という話なんですけども。裏さんは乃り子には、お会いした事ありますか?

裏:乃り子さんはお会いした事ないんですよ。

菅:乃り子さん、今回の映画でも描かれてたんですけど、ギュウチャンの最初の個展の時、色々と手伝わされてましたよね?その後、個展会場でギュウチャンが楽しそうにバーッとやってるのを何か、乃り子さん、つまらなさそうな顔で観てるんですよ。で、「I’m tired..」疲れたとか言いながら、「手伝わされて大変よ!」みたいな、ちょっと不機嫌なんですよ、最初の頃は。で、最後の個展、2人が一緒に展覧会をするって時の乃り子さんの顔がですね、もう本当嬉しそうな、充実した感じだったと思うんですけど。その辺の変化って裏さんも感じました?

裏:もちろん、感じました。実は映画に登場されてる方で共通の知人が出ておりまして、そういった方にもそのような話を聞いてはいたんですけども。

菅:もともとアーティスト志望だったんですね、乃り子さんは。映画の中にも出てきましたけど、19歳でNYに留学したと。乃り子さんの家は、確か、、映画館か何かをやってたのかな。富山の凄くお金持ちのお嬢さんなんですね。で、NYに行って、これから勉強して前途洋々たるはずだったんですけど、ブリーに会ってしまった。ブリーというのは、とんでもない奴でね。まぁアーティストとしては最高なんですけども、生活人としては今日の映画を観てわかるように、とてもじゃないけど生活なんか出来ない。そういう人と会ってしまったばかりに乃り子さんの人生というのは大きく狂ってしまった訳なんですけども。

今回の映画の中での一つの収穫というのは、その乃り子さんが「キューティー&ブリー」の新しい作品を作ったこと。おそらく前から温めてはいたんだと思うんだけれども、実際、この映画監督も途中から切り替えていったような、、軸足を切り替えて。ギュウチャンも最初、自分が主役と思ってたらしいんですね。俺の映画だ!と思ってたと思うんですが、フタを開けてみると「 CUTIE AND THE BOXER 」。最後のクレジットも二番目でしたよね。そういった意味で完全に主役が乃り子さんに移っちゃったと。主役である乃り子さんのストーリーが「キューティー&ブリー」の、今回の二人展のシリーズ。ま、そこに凝縮した訳ですけども。だから乃り子さんのキューティーも映画の中で一緒に育って、成長していったというような、そんな感じがしましたね。

裏:どうしてもギュウチャンばっかり、世の中に注目される中、このような形で観れたのが凄くいい映画だなぁ、と。

菅:あと富井玲子さんっていう有名な美術評論家なんですけど、途中、眼鏡かけた女の人出てきましたよね?ギュウチャンが日本に行ってる間に。その方がキューティーが怒ってる顔とか泣いてる顔じゃなくて、笑ってる顔がいいなぁ。っていう話をしてたんですけど、ああいうところも何かこう、キューティーの世界に少しずつ付加されて変わっていったような、そんな気がしましたね。

裏:館長はあのアトリエに行かれたり、展覧会のあったギャラリーに足を運ばれたりしてたんですよね。NYに行ってギュウチャンとはブルックリンの橋の上で出会ったとか。

菅:2回目に会った時なんですけどね。もう今は亡くなられたんですけども、石松健男さんっていう写真家がいまして、アートプラザの会館記念日にネオ・ダダ ジャパンっていう展覧会の時にNHKがネオ・ダダの番組を作るという事で、大分市もビデオパッケージを作るという事で、石松さんも同行して。ネオ・ダダのアーティスト、荒川修作さんとか田辺三太郎さん、豊島壮六とか、皆お会いしてたんですけど。ギュウチャンに会いに行くって時にNYのブルックリンブリッジ渡ってすぐのところに住んでまして、ブリッジのところで「美味しいピザがあるんだよ!今から食い行こうよ!!」って。でもドキュメンタリーでもわかるように生活はですね、ちょっと悲惨と言いますか、、とてもそこでゆっくりしたいな、という感じはしないですね。泊まっていけ、と言われても「いや、いいです!」って思うような。笑。広い3階建てくらいのビルのロフトに住んでまして。で、室内では絵画を。

今回もそのシーンがありました。それからベランダみたいな屋上みたいなオープンな空間があるんですけど、そこでオートバイ作ったり、時にはボクシングペインティングしたり。そういった形で生活してるんですね。料理なんかはもう何作ってんの?何食ってんの?っていう。乃り子さんはそれなりにやってるんだと思いますけど、可哀想なのはアレックスですね。息子。アレクサンダー空海っていう名前なんですけど、とにかく一番凄い名前。アレクサンダー大王と空海を合わせたんですね。ああいう育ち方してますから、ちょっとこう社会性といいますか、非常に難しい、、アル中が揃って騒いでる中、お風呂入ってるシーンがありましたけど。よくああいうシーン残してたなぁ、と思ったんですけど。ハインザーリングさんが上手くその辺の60年代のネオ・ダダの写真とか70年代の最初にNYに行ってすぐの写真とか、結婚した時のものとか、上手くアレンジしながら素晴らしい映画に仕上げたなぁと。

裏:ギュウチャンが3年くらい前に大分に来られた時に菅にがパスタを作って頂いて、、

菅:食欲が凄いんですね。ステーキ3枚くらいペロッと食べちゃう。それくらいやっぱりパワフルで。お酒が飲めなくなったっていうのが、ちょっと寂しいんですけども、彼には良かったな、という風に思います。本当にアル中で、97年に初めて会いに行った時にバーボンか何かをお土産に持って行ったんですね。そしたら乃り子さんと2人で取り合いをするんですね。本当に大好きで、、でも食欲は未だに凄いですよ。水泳やったり、ジムに通ったり。

裏:水泳もボクシングペインティングが出来るように毎日、泳がれてるって。凄いプロ意識というか。

菅:あれだけやっぱり身体のキレがいい81歳はいないと思いますよ。60年代のボクシングペインティングはもっと凄くって、亀田興毅みたいな感じですね。凄いギラギラしてパンチの出方も非常に激しかった。とにかくあの若さを失わない篠原有司男っていうアーティストの凄さはこの映画の中でも現れていますよね。

裏:実は昨年の12月にギュウチャンと乃り子さんと大分に来て頂ける様にずっと段取りをしてたんですけども、今回この映画のためになかなかスケジュールの調整が出来ず、断念したんですけども。また大分に来て頂きたいなと思います。

菅:乃り子さんもぜひ一緒に。だいたいギュウチャンばっかり行くんですよ、日本に。乃り子さんはちょっとヤキモチ焼いちゃってね。自分の居ないところで結構、作品をあげちゃったりするもんですからね。今日のシーンにもあったと思うんですけど、アレクサンドラ・モンローというグッゲンハイム美術館のキュレーターで有名な人なんですけど、その人がボクシングペインティングを見せてくれ、と。本気で買いそうな感じで来たんですけど。結局、ああいう感じで潰れちゃう事が多いんですよね。何でそういう風になっちゃうかって言うと、ギュウチャンの作品の値段が決まってないんですよ。変動相場制みたいな。気に入った相手だとタダであげたり、安く売ったりするんですよ。ギャラリスト的に言えば、あんまりよろしくないんですね。しっかりしたギャラリーが付いて値段も固定してそれ以上、下げない。というような指定をしなきゃいけないんですけども。

他の文にも書いてましたけど、花魁か何かのシリーズをNYに行ってすぐ、それこそ何十ドルかで売るはずが、2ドルで1,000枚売ってくれって言われて、全部、売っちゃったんですね。そしたら値崩れしちゃって他のアーティストが皆、困った訳ですね。そういうエピソードもあるくらいで、非常にその辺のマネージメント的なところがね、なかなか難しい。完全に彼はアーティストとしては最高なんですけども、マネージメントとか生活する上での能力は厳しいところがある。

裏:お会いしてもそうですけど、そういう性格が憎めないですよね。凄く人柄として。凄く優しくて思いやりのある。ただ目がもの凄く悪い、、1mくらい近づかないと誰かわからない。

菅:それでも絵を描いちゃいますからね。それが凄いなぁ、と思いますね。本当に凄い近視なんですね。だから地下鉄の表示見るのに私が要るでしょ?って乃り子さんも言ってましたからね。だけど、本当にギュウチャンの素晴らしいところは江戸っ子なんですね。野暮な事は嫌いで、とにかくパンパッーンと何でも物事を運んでね。「いいよ、いいよ、やるよ!」っていう感じでやっちゃうとこが本当に素晴らしい。そういう彼の素晴らしさっていうのとアートが認められるっていうのが別次元なのがね、問題というか、苦労だと思うんですけども。今回の映画でどういう風に化けるのかっていうのが一つの楽しみではある。

裏:この時代に篠原有司男をクローズアップして、ネオ・ダダ、、まぁ前衛、今の現代美術も踏まえて、何か時代性を感じる事はありませんでしたか?

菅:そういう時代が来てるのかな、と。草間弥生なんかもね、そうだと思うんですけど。篠原有司男と草間弥生の共通するものは何かと。前衛芸術家だよね。前衛芸術家っていう言葉はね、もう死語に等しい。前衛という概念そのものが、なかなか無い訳で。なぜか?って言うとポストモダンって言う言葉、皆さん聞いた事あると思うんですけど、要するに一番前を入ってるものを前衛と言うんですけど、こんなのないよっていうのがポストモダン。それ以降は前衛っていうのが成立しないと言われているんですが、この2人は未だに前衛と言い続けている。

裏:先日、大分に来て頂いた秋山祐徳太子さんも前衛芸術家ですよね?

菅:そういう暴走老人と言いますかね。笑。そういう人たちが何かこう新しい息吹を我々に与えてくれる。我々、元気が無いじゃないですか?若者も含めて今の閉塞した、いろんな社会とか経済的な問題の中で。だけど、そういうの関係なく純粋なアーティストがアートの為にとにかく力一杯やってる姿っていうのは勇気が出てきますよね!

裏:本当に、今回の映画ってアートとは?っていう事を改めて確認させてもらえたような気がしますね。

菅:二項対立じゃないですけど、アートと生活。この映画の中でもアートと生活というのは常にぶつかり合って。東京とNY。あれだけ東京でスターの人がNYで売れないという場所による対立と言いますか。もちろんキューティー&ボクサーっていう2人の対立。最後ボクシング対決みたいな、あれが一つの象徴だと思うんですけど。最後キューティーがもうガーンとパンチを出してるシーンがあるけれども、そういう2人のパワーでこの映画を作ったなと。そして乃り子さんの今までずっと堪えてきた、耐えてきた、そういったものが何かこの映画の中で炸裂したような、そういうラストだった気がします。ボクシングっていうのはNYのアートの壁みたいなのを打ち破ろうする象徴で、ボクシングペインティングをやってるものと分析してますけど。

ギュウチャンと言えばボクシングペインティングであり、オートバイであり、でっかいペインティング。そういった幾つかの技を持ちながらも、本当に国際的にもっと評価されていいはずが最高にアンダーレイテッドな一人じゃないかな、というように思いますね。この前、4月ですかね?篠原さんと対談した時に思ったのは、ギュウチャンはもしかしたら認められるあと一歩のところでで行くんですけどね。あと一歩が越えられない。いつもそうなんですよ。草間弥生さんはバッーンって行っちゃいましたけど。何で越えられないのかな?って不思議なんですけど。

僕の持論なんですけどね。フーテンの寅さんみたいなところがあるんですよ。あと一歩のとこまで行くんだけど、最後逃げちゃう。寅さんがいっぱい失恋をしながら、今度は本当に最高の相手から言い寄られたら逃げちゃう。だから、なかなか行っちゃわないとこがあるんですけども、今度は行っちゃう可能性ありますね。まぁどういう行き方をするのか、わかりませんけども。ただ、凄いやっぱり照れ屋。凄くシャイで。そこがまたギュウチャンの魅力でもあるし。そして乃り子さんもそういうギュウチャンを知っててね、本当だったらもっとこう有名になりなさい!ってやる手もあるんでしょうけど、やっぱりどこか似たようなとこがあって、映画の中でも言ってましたけど、同じ鉢の中に咲くみたいな。そういう似た者夫婦なとこがあるのかな、と思いましたね。

裏:やはり経済的リスク、、技術だけ、表現だけで生きて。そういう戦う状況を自分でいつも作って、美術に対するモチベーションを維持する。そういう生き方を選んでるのかなって感じますね。

菅:モチベーションが落ちないっていうとこだけでも凄いなって。やっぱり純粋なアーティストが持ってる表現に向かうエネルギー、パワーというものを維持して。そこは芸術も生活も一体となって篠原有司男の姿として在るのかなって。改めてこの映画を観て感じました。本当に素晴らしい映画だったと思います。

 

『キューティー&ボクサー』

上映期間 2月2日(日)~2月7日(金)

時間   16:20~/20:35~ (1時間25分)

会場   シネマ5bis

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