2本の舞台が本番直前!市村啓二インタビュー

九重町民劇場は、九重文化センターが完成したのをきっかけに2000年3月に発足した、九重町民有志らでつくる劇団です。
1999年の第1回大分県民芸術文化祭で大賞を受賞したミュージカル「朝日長者物語」のキャスト、スタッフらが中心となり旗揚げしました。
これまで、町に伝わる伝説等を題材とした先哲的な演劇・ミュージカルの公演を町事業との連携を取りながら年1回行ってきましたが、創設20周年を迎える本年度は、九重町民劇場のなりたちを元にフィクションを加えた完全オリジナル作品です。
『九重町民劇場 ビギニング』
『九重町民劇場 エピソード0(ゼロ)』
このチャッチフレーズに相応しい内容となる挑戦的かつ意欲的な作品。
10月12日に第21回大分県民芸術文化祭の開幕行事としてiichikoグランシアタで舞台「このこえ」を上演する6~74歳の劇団員ら27人は、熱のこもった稽古に励んでいます。(九重文化センターでは11月30日、12月1日の二日間公演)
今年5月から本格的な練習が始まった、ホームグラウンドの九重文化センターでの稽古へおじゃまし、作・演出の市村さんへインタビューをおこなってきました!

久原淳子(クバルジュンコ・演劇制作プロデューサー。以下、久原):代表の時松さんから伺ったのですが、今回、九重町民劇場20周年記念公演の作・演出を引き受けるきっかけになったのが、メンバーが日田で上演された脚本・演出・出演作の『HandY-ハンディ-』を観劇して、是非この人にお願いしたい!と思ったからだそうですね。それを聞いた時はどう思いましたか?

市村啓二(イチムラケイジ・脚本家・演出家・俳優・演技指導。以下、市村):そうですね、素直に嬉しかったですね。やっぱり必要とされるっていうことはとっても嬉しい事なので、もう二つ返事で。

久原:メンバーは『HandY-ハンディ-』を観て、市村さんへお願いしたいと依頼したわけですが、そのことによって、今回の作劇や演出方針になにか影響はありましたか?

市村:ないですね。町民劇場のメンバーの中でも観ていない人もいるので、観た人は「面白いな」って思ってくれたと思うし、、、それで一回顔合わせをしたんですね、その時に、みんなの中に半信半疑の人もいるんじゃないか?って思ったんでね。

久原:(笑)

市村:だから、やるからって、、、僕が(作・演出を)受ける以上は、歴史ものではなくて現代ものをやりたいっていうのは言いましたね。

久原:ああ、、、

市村:市民劇ってよく、その土地の歴史もの、偉人の話をやるじゃないですか。それも大切だけど今回は現代劇でやりたいと。その時はそれくらいしか構想はなくて。楽しい作品を。生き生きと、出演者の皆さんが輝ける作品を作りたいなというのは最初からありましたね。題材はなかったですけど。

久原:では、これまで市村さんがやってきた舞台の影響とかはあまりなく?

市村:いや、ありますあります!作品をかえても、僕はハッピーエンドが大好きなので、途中にどんな悲劇や喜劇があったとしても、最後はハッピーエンド、、、ハッピーエンドというのも極端な話ですけど、希望や光へ向かいたい。リアルっていうか、今の社会が暗いことや不幸なことが多すぎるから、演劇くらいは明るい方へ向かうっていうのが僕のコンセプトなので

久原:なるほど。ところで、九重町へ来たのは今回が初めてですか?

市村:日田の後、2018年の7月に九重で『HandY-ハンディ-』の上演をしました。

久原:九重町でも上演していたんですね。

市村:はい。なんですけども!この7月公演というのがなかなかドラマチックで。

久原:おお。

市村:公演準備を終えたときに台風がきたんですよ。

久原:ああー

市村:前日までやれるのかやれないのかハラハラしてまして。で、「やれる!!」ってなったんだけど、、、やはり町の方から中止の判断が出て。昼が学生向け公演で夜は町民に観せるっていう二本立て企画だったんですけど、昼はダメだとわりと早めに出てて、夜だけは出来るってことになってたんですよ。だけど文化センターに来たら、ずっと一緒に準備していた町役場の担当の方が「市村さんすみません」って。「一日、中止になりました」って。なので「分かりました」と。僕らがやる自主公演ではないから、主催者側が中止と判断したならそれには抗えないから。でも、「ちょっと待ってもらっていいですか?」と。ちょっと内輪で話してくるって出演者の3人とスタッフに「中止になりました。ただ、明日ってみなさんの予定はどうなってますか?」と。

久原:え!?

市村:飛行機が予約変更できなかったから僕らはとりなおしたんですけど。帰る予定だった全日空のチケットを捨てて格安航空券を買うっていうね。

久原:(笑)

市村:スタッフのみんなも夜なら駆け付けられるって言うから、町役場の人に「僕らは大丈夫ですから、明日やりませんか?」って。そうしたら担当の方が「分かりました。町に掛け合います」って。

久原:おお!

市村:そして「許可が下りました!」と。で、翌日はピーカンになってセンターのホールが満席になって、無事に夏は完結したと。この出来事を「このこえ」にもエピソードとして織り込んでいます。

久原:なるほどー

市村:無事に終われてほっとしましたが、やっぱり小中学生に観てもらえなかったっていう心残りが僕のなかにもあるし九重町のみなさんにもあったから、8月くらいかな?電話がかかってきたんですよ、その町役場の担当の方から。「市村さん、今年の12月ってどうなってますか?」って。「え?どうしました?」って聞いたら「あのー、中止になったあれを12月にやりたいんです」って。九重町の学生向け事業で上演したいと。それで、12月は無事にやれたんですね。なので、去年1年で九重町で3ステージやってるんですよ(笑)

久原:すごい(笑)

市村:全ステージ満席で、町内の小中学生は全員『HandY-ハンディ-』を観てくれてるんです。っていうのがあるから、九重町とはとても縁深いんです。

久原:うーん。じゃあ、九重町の印象を、、、っていっても一言ではなかなか言えないですよね。

市村:腐れ縁ですね。

久原:(笑)

市村:腐るってあれだけど(笑)もうなんか、同志みたいなもんですよね。苦楽を共にしてるから。

久原:では、町民劇場のメンバーの印象はどうでしたか?

市村:最初はねえ、、、警戒されてるのかな?と思って。

久原:(笑)

市村:ほら、劇団員の半数は僕より年下だけど半数は僕より先輩だったりしますよね。僕の年齢が40前だからちょっと中途半端っていうか。でも演出をやる以上はちゃんと役割を果たす。責任を果たすってことに年齢は関係ないんで。ただ、劇団員の皆さんのことが本当に分かんなかったから。どういう作品をしたくてどういう演技をしたいのかが全く分かんなかったから。僕って、真面目にふざける作品を書きたいから、何度も聞いたんですよ。本当に僕でいいんですか?僕、けっこうふざけますよ?って。そう聞いても、「はあ」とか「へえ」とかみたいな反応だったから大丈夫なのかなあ?って。皆さんが大丈夫なのかな?じゃなくって、皆さんにとって僕で大丈夫なのかな?っていうのがあったんです(笑)なので一言でいうと警戒されてるかんじがすごくありました。皆さんはそんなことないって言うかもしれませんけどね(笑)

久原:(笑)その雰囲気で稽古をすすめてきていて今、グランシアタ公演目前なのですが、ここが見どころだ、というポイントなどありますか?

市村:どこを観ても楽しめます。どこを観てもっていうのは、話のメインの役を観てもいいし、ビジョンを変えて奥に立っている人を観てもいい。みんな生きている。この舞台には必ず、あなたに似ている、あなたの家族や知り合いに似ている、身近な登場人物が必ずいるので、どこを主役として観るかっていうのは、あなた次第です。お客さんに選択してほしい。

久原:感情移入できる人が、メインで動いてる人とは限らない。人生の縮図のような?

市村:そうです。その中で見つけてほしい。

久原:舞台に自分を発見する。

市村:はい。何回みても観方を変えて、何度でも楽しめる。グランシアタ公演だけでなく、九重と3公演観ても、観たりないくらいだと思います。

久原:話は変わりますが、市村さんは『HandY-ハンディ-』のホルトホール大分公演も来週(9月25・26日)に控えていますよね。九重町の人は町をあげてって勢いで支持してると思うんですが、大分市内の人はまだ観たことのない人が多いのではないかと思います。そんな方に向けて、メッセージをいただけますか?

市村:『HandY-ハンディ-』は、【手話で漫才】という奇抜なキャッチコピーなのですが、このキャッチコピーを聞いたときのリアクションがいくつかあります。まず【漫才】に引っ掛かって漫才を見に行こう。違うんですね、これは演劇なんです。次は【手話】に引っ掛かる。手話ってわたし知らないけど全部手話でやるんですか?と。そう言ってくるお客さんが実は僕にとって一番のターゲットでして、手話を知らない人が観に来てくれたら、舞台で登場人物が手話を覚えていくのと同じタイミングで、お客さんもそうか、って覚えていくんです。85分観終わると、帰る時に手話をいくつか覚えているってことが起こる舞台。

久原:面白そう。

市村:実は、今回の大分市の公演は、『HandY』を4年間やってきて初めて、セリフ字幕がつくんですよ!!実行委員の皆さんの思いやJ:COMホルトホール大分のスタッフの方々のご協力を得て実現します。

久原:ああ!

市村:今までずっとやりたかったんですけど、技術的や金銭的な問題で実現しなかったんです。でも今回いろんな条件がそろってやっと実現ってことで、聴覚障害をもっている方も、今までも何人も観に来てくれていたんですけど、より、新しい試みとして観てもらえる。

久原:ホルトホール大分は特に、市の複合交流施設だからぴったりですね。

市村:そうなんですよ、だからなんとしても実現させたいって。

久原:わあ、それはあたしも観劇するのが楽しみです。

市村:でも、どうなるか分からないですけどね。初めてなので。映画字幕と違ってリアルタイムですから。賛否があるのは覚悟のうえです。

久原:では、本当に新しい挑戦なんですね。

市村:挑戦です。ただ、大分市公演でできたからこれからもできるとは限らないからですね。セリフ字幕付き上演に関しては、僕たちの力だけでは実現できないですから。でも、九重町で実証されてますけど、下は小学生から上は80代の方まで網羅して楽しんでいただけている、三世代、なんなら四世代で楽しめる作品です。今回の大分市公演は、どの世代も、どんな立場の人もまるく包む盤石の態勢で臨みます。今回のホルトホール大分はHandY2019の締めくくりで、きっと『HandY』4年目にしてひとつの集大成となる公演になると思います。なので僕らも相当に意気込んでいますし、実行委員のみんなも15000枚のチラシを手配りで届けてくれています。なので話題になっていて、大分で宣伝活動をしていると「あ、見たことあるそのチラシ!」というのを何度も聞くのでサブリミナル効果っていうのは大分市内の人にけっこうあるので、あとは動員です(笑)

久原:大分の人ってけっこう直前に決めますからね(笑)「予約してないけど入れる?」って当日窓口に来る人もなかなかの割合でいますからね。

市村:それは大丈夫です。ホルトホール大分へ来てください。

久原:大ホールだから(笑)

市村:ハラハラでもあるドキドキでもある、、、

久原:市村さんはいま、大分県内で2本の芝居を抱えていて、どちらも新しい挑戦なんですね。

市村:はい。楽しくやらせてもらってますよ!どちらも「その先」があると思っているので。未来がある作品なんです。やりがいのある仕事だと思っています。それは、九重町民劇場『このこえ』に参加しているメンバーにとっても、『HandY-ハンディ-』に取り組んでくれてる人、観てくれた人にとっても、未来を提起する作品になっている、、、と言うとおこがましいですけど、なんていうか自分の未来。過去を見かえして未来をみるというテーマはどちらにも共通しているので。でも、そういうメッセージを強要するのではなくて、匂いを感じ取ってくれればなと思いますね。

久原:観終わったときに、観劇体験によって、何かを受け取ってもらいたいと。

市村:そうです、そうです。それと上演時間ですが、『HandY-ハンディ-』は85分、『このこえ』は90分くらいになると思います。観終わったあとお客さんが興奮して「ちょっと呑みいく?」とか「ちょっと話しようよ」ってなるきっかけになってくれれば嬉しいなって。それも僕の作品作りのテーマなんですけど、ダラダラしないって(笑)

久原:はあ、、、すごくいい話をうかがいました。ありがとうございます!

 

市村啓二(イチムラケイジ)
脚本家・演出家・俳優・演技指導

「劇団ふるさときゃらばん」にて演劇をはじめる。10年間全国各地2,000以上の舞台に立つ。退団後、東京の劇団「三ツ星キッチン」にて活動。劇団公演の他「劇団EXILE」などに出演。
現在は独立し、俳優以外に脚本家、演出家、演技指導として、プロだけでなく、学生、社会人、シニアと幅広い年代と演劇をしている。2016年、脚本・演出・出演作『HandY-ハンディ-』が第13回杉並演劇祭にて大賞を受賞。大分県内では日田市、九重町、竹田市で公演し、好評を得る。


市村啓二オフィシャルサイト
https://www.keijiichimura.com/profile

『HandY-ハンディ-』J:COMホルトホール大分公演
https://www.horutohall-oita.jp/zctl/wevents/pubcontent/2639

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