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カモシカと青空 第十二話「ユニクロ帝国の光と影」横田増生 by カモシカ書店

2014年5月、大分市中央町に誕生したカモシカ書店
古本を中心としながら新刊も取り扱い、カフェとしても気軽に利用できる癒しの場。
フードアナリスト木村真琴さんの手作りケーキやこだわりのコーヒー、水曜日のネコというフルーティースパイシーな珍しいビールもお楽しみ頂けます。
定期的に本だけに留まらない知的好奇心を刺激するイベントを開催。
 
そんなカモシカ書店の店主、岩尾晋作くんのコラム第十二話です。
オムニバス的に一冊の本を紹介していく人生の短編集。
どうぞ、お楽しみください!
 
岩尾晋作くんへのインタビュー記事はこちら。 http://yadorigi.jp/magazine/157
 
 
 
 
第十二話「ユニクロ帝国の光と影」横田増生
 
 
これはごく最近読んだ本なのだが、むさぼるように読んでしまった。
横田増生と言えば、書店人としてはまず「潜入ルポ アマゾン・ドット・コム」が浮かぶ。
アマゾンの倉庫にアルバイトとして潜入、配送のラインに従事しながら、客観的な数字と主観的な体験をクロスさせながら、巨大な、いまや世界一の小売業、アマゾンにメスを入れるというエキサイティングな本だ。
 
アマゾンによる取次(出版業界の卸)の使い方、運送会社の使い方、労働者の使い方には熾烈な競争を強いる方針がある、ということは共通して言える。
創業者、ジェフ・ベゾスなる人物が特に書籍を愛しているわけではなさそうだ、とか恐らくはすでに紀伊国屋書店を抜いて、日本一の書店でもあるアマゾンが、そのバイイングパワーで出版業界の商慣習に革新を迫っている、だとかそういう雰囲気を感じることができる本で、今後の業界を見通す手がかりのひとつとして書店員には大変おすすめの一冊である。
 
で、「ユニクロ帝国の光と影」だが、アマゾンの次はユニクロに体当たりしていくわけだ。
 
国内、海外のユニクロに関係する労働者のインタビューや、創業者権オーナー社長柳井正本人にもインタビューして、ある調査によると日本人の96パーセントが買い物をした経験があるという、もはや知らない人のほうがおかしいユニクロという服屋さんの強さと弱さをあぶりだしていく。
 
柳井正の生い立ちや、ユニクロの決算の数字や株価、人事を含め数々の戦略を分析し、さらには非公開の中国の取引工場も暴く。
私にとって何が面白かったかと言うと、ひとつには地方の服屋から世界企業になっていく様である。
まあ、この成功の物語は別に横田増生のようなジャーナリストの本を読まなくても、柳井が自分で書いている本がある。
 
もうひとつは柳井は今や日本一の富豪となったわけだが、さらに売上高を伸ばし世界一を目指す、という目標を掲げながら、従業員にかなり過酷な労働環境を強いているという事実である。
 
この労働環境については、かなりの悶着があったようだ。
つまり労働環境の記述についてユニクロが版元の文藝春秋とこの本を名誉毀損で訴えたのである。
この辺はある程度話題になったので気になる人はググってみるといい。
1審、2審、ともう決着は着いているようで、ユニクロ側が敗訴している。
 
だからかなりの程度、横田増生の書いたことを信じるとすると、柳井正は一体何がしたいのかわからなくなるのだ。
 
本書によると、ある年の柳井は自社の株式の配当金で60億以上、役員報酬でさらに数億の収入がある。
まあ抱えているものが多大なので支払うものも相当あるのだろうから、60億という収入が柳井にとって充分かどうかは私にははっきりとはわからない。
 
ちょっとでも油断をするととんでもなく支出が嵩み、一瞬で全てを失い、失うどころかマイナスに転じてしまう危機感はあるだろう。
 
病的な拡大主義者だと批判するのは簡単だが、結局、そうせざるを得ない状況や構造の中にいる、というのが真実ではないかと思う。
 
私は小説家を幸福だとは思わないことを何度か書いたり喋ったりしているが、柳井もまた幸福とはとても思えないのだ。
 
哲学は古代より「よく生きる」ことを何よりの目標として掲げている。
極端な例だとディオゲネスのような、ホームレス生活でも「よく生きる」ことはできることを手を変え品を変え、哲学は指し示す。
しかし金はあってもなくてもいい、という態度は言うのは簡単だが、どこか狂信的な匂いがするのも事実である。
 
金の亡者の柳井を哲学や精神の観点から批判することはなんとも容易く、陳腐であるし、無意味だ。
そもそも柳井の著書「一勝九敗」などから伝わる実直な人間性を見ると、私は柳井が嫌いではない。
 
この原稿は切れ切れに書いているので私の気持ちはその都度、揺れ揺れである。
もし、読んでくれる人がいるなら、大変読みにくい原稿だとは思うのだがこのまま私は進む。
 
カモシカ書店は100パーセント、来てくれる方から対価をもらうことで運営している組織である。
私がパソコンを打てるのは対価のおかげだし、毎日力を貸してくれるスタッフに感謝を込めて給与を支払えるのも対価のおかげである。
それを既成の言葉で言うと「営利団体」ということになるのだが、「営利団体」と言われるとどうもしっくりこない。
多くの企業や自営業でも、「営利団体」と言われると同じようにしっくりこないのではないだろうか。
 
もちろん対価を常に求め、対価による利潤がないと明日はないので、NPOや公務とははっきりと違うという意味でカモシカは「営利団体ですので、云々」ということはよく言う。
 
まどろっこしいな、何が言いたいかというと、営利団体といえども利潤だけが目的ではないという単純なことで、利潤と他に何が目的であるか、その一点においてあらゆる営利団体がそれぞれの自己存在証明とする、ということだ。
 
カモシカは利潤を得ることで、時代に残る本、価値のある本をなるべく東京から大分に集めようとしているし、そのことによって自らの誇りを醸成することを目的にしているし、読書という行為がいかにスタイリッシュで、且つ内省的に己を成長させるかということを若い人に知ってもらいたいし、そのように成熟していく若者と大分でともに暮らし、未来を作っていくことを目的にしているし、そんな大分を県外や国外の人にもっと感じてもらうことを目的としているし、特別なセンスを持った人をスタッフとして力を借りてお互いに活かし合うことを目的としているし、それによって、雇用と納税を生むことを
目的としているし、その全てがぐるぐると渦になって最終的にはひとつの文学として立ち現れることを目的としている。
 
カモシカにいるとき我々は瓦礫を運んでいるのだが、それは常に、瓦礫を運ぶことによっていつか必ず積み上げる城を見据えているということだ。
 
カモシカは本屋として、カフェとして、クオリティを上げることが常に自らに課す課題であるが、それは売上高だけでは計算できないのである。
売上ももちろん重要だが、今の倍売れば2倍にいい本屋とカフェになった、とは簡単には言えない。
 
ユニクロに話を戻そう。
柳井はユニクロで稼いだお金でユニクロの服をたくさん買おうと思うだろうか。
ユニクロの服は便利だが、特別な気持ちでそばに置きたいような服だろうか。
服屋としての、メーカーとしてのクオリティは売上高だけでは当然計れない。
便利で安いので消費者を通しての社会貢献度は高いのかもしれないが、その影で従業員や工員が泣いているとしたらどうだろうか。
そういう社会問題的な言及でなくとも、力を貸してくれるスタッフに還元したいという気持ちが希薄なリーダーというのは、人間として真剣で必死な態度ではあれど、果たして成熟していると言えるだろうか。つまり、ユニクロの城が一体なんなのかさっぱり見えないのだ。
 
結局、それを続けていて美しいと思えるかどうか、ということが重要なのだと私は思う。
そうでないと、拡大拡大拡大、の無間地獄に自らを追い込んでしまうだろう。
経営者は大小問わず、美的なセンスと芸術家としての感覚が実は数字の感覚と同じぐらい大切なのだ。
 
 
新しい時代の我々は物に囲まれたいのではなく、いい気持ちで生きていきたいのだ。
それはやはり、哲学的なアプローチであるし、そんな難しく考えなくても、愛をもって生きていきたい。
まじほんと。
いつも荘厳な建築物を前にする気持ちである。
 
 

                   文:岩尾晋作

 「ユニクロ帝国の光と影」

横田増生

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