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カモシカと青空 第十八話「さよならのあとで」ヘンリー・スコット・ホランド by カモシカ書店

2014年5月、大分市中央町に誕生したカモシカ書店
古本を中心としながら新刊も取り扱い、カフェとしても気軽に利用できる癒しの場。
手作りケーキやこだわりのコーヒー、水曜日のネコというフルーティースパイシーな珍しいビールもお楽しみ頂けます。
定期的に本だけに留まらない知的好奇心を刺激するイベントを開催。

そんなカモシカ書店の店主、岩尾晋作くんのコラム第十八話です。
オムニバス的に一冊の本を紹介していく人生の短編集。
どうぞ、お楽しみください!

岩尾晋作くんへのインタビュー記事はこちら。 http://yadorigi.jp/magazine/157

なお、紹介されている本は実際にカモシカ書店で購入することができます。

※すでに売切れや非売品の場合もありますので、ご来店前にカモシカ書店へお問い合わせください。

 

 

第十八話「さよならのあとで」ヘンリー・スコット・ホランド

生きることに意味はあるのか?
という問いは20代までのもので、その後の人生の覚悟次第では、その問いに答えるのはそれほど難しいものではないと思い込んでいた。
時は遡れないのに、これから何が起きるかを知ることはできない。
当たり前だが本を読んだところで、過去を正せるわけではないし、将来を知ることができるわけでもない。
この、過去のどうしようもなさと、未来の不透明さの間に僕たちの苦しみの全てがあるのだろう。
 
そんな苦悩の果てに、生きていることに意味があるかどうかは誰も証明することができない。
「生きろ」というのは戦うことで、戦うことを選ぶのは、戦わないよりはずっと容易い。
「死ぬ理由が1000あっても、生きる理由が1あれば、生きる」
力強く聞こえるがそういう考え方はむしろイージーだ。
戦う自分に酔うことで、いろんなことがどうでもよくなり、自分の経験だけで生の価値を証明したと思い込めるだろうから。
 
僕の30代の始まりはまさにそのような「わかったふり」を、あるいは「考えないふり」を、なるべく一貫して提示しようという態度の連続からなっていた。
それは、そんなに悪いことだったとは思ってはいない。だが簡単に突き崩せるものだった。
 
つまり、もう一つ問いを重ねてみるのだ。
Q.「生きることに意味はあるのか?」
A.「ある。自分を完成させるために生きている。そのためには悪を為すほどの覚悟で、善を為すんだ」
ここまでは割と簡単だった。いや、それでも結構苦しかったけど、こんな僕でも辿り着けた。
さあ、ここでもう一度、問いを重ねてみよう。これは、少なくとも今の僕にとっては、究極の問いだ。
 
再びQ.「なるほど。では、生きることに意味があることに、意味はあるのか?」
A.「 」
僕は自問して、絶句してしまった。
経験則だけで語ることができない、哲学の領域とはおそらくここからだったのだろう。
これがきっと、人生の本当の恐ろしさだ。
そしてたぶん、答えがない。答えようがない。僕には全くわからなくて、真っ暗で怖くて本当に泣いてしまいそうだ。
何のために人生に意味を見出そうとしているのかも知らずに、ただ自分の人生を肯定したかっただけじゃないか。
そんな人生でも、これまでのあらゆる経験は私の自信となり、日々の生活を基礎づけるのに役に立った。
だが、「役に立つこと」が一体何の役に立つというのだろう?
 
風が吹いて木々がそよぐ。
その心地よい風景はただ自然の法則だけは存在していることが分かって、僕にはそれに意味があるのかどうかなんて見分けられない。
どこかの森で雛鳥が孵化する。老いたリスが息絶える。僕にはそれに意味があるのかどうかなんて見分けられない。
そこにどんな喜びや悲しみがあるのか、僕には知ることができないから、人間の生活や繋がりや死生観も、大自然の、森羅万象の法則のごく一部だなんて割り切り方もできそうにない。
 
なんでヘンリー・スコット・ホランドを持ち出したのかというと、彼のこの詩は、大切な存在に呼びかけることが書かれていて、どうにもその、呼びかけるということが、僕の感じる暗闇を、照らしはしないけど、少し居心地をよくしてくれるように思うのだ。
呼びかける。風が吹いて。誰かがふとこちらに顔を向ける。木々がそよぐ。
たぶん、同じような出来事だと思う。意味があるのかないのか、わからないような何でもないこと。
何でもないこと。何でもないこと。何でもないこと。何でもないことでいいんじゃないだろうか。
何でもないこと、表面。表面こそ一番深く、世界の暗闇を表していて、暗闇を表面的に覆いつくすことで、世界は均衡を保っていける。
石原吉郎の表現を少しだけ借りる。
きっと、花のように、表面的であることでしか、拮抗できない苦しみ、それが人生の実相に近いように思う。
 
風であって、木であろうと思う。
風が吹いたら、そよぐ。木があったらそよがせよう。気が合うかもしれない。
だから、僕はただ呼びかけよう。
呼びかける。当たり前の調子で、やさしい気持ちで。表面的な挨拶から、ときにはちょっと入り組んだ事情まで。
「人生に意味があること」の意味はわからないけど、わからないままに、ずっとずっと呼びかけ続けよう。
 
どこまで届くのかはわからないけど、風の起源はどこの世界なのかわからないまま、たしかに吹いているのだから。
心地よく、そよいでくれたら、それだけでいい。
 
 
 
 
 
 
                   文:岩尾晋作
 
 
「さよならのあとで」
ヘンリー・スコット・ホランド
1,300円+税
 
 
 
 

ー カモシカ書店 ー

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