2014年5月、大分市中央町に誕生したカモシカ書店。
古本を中心としながら新刊も取り扱い、カフェとしても気軽に利用できる癒しの場。
手作りケーキやこだわりのコーヒー、水曜日のネコというフルーティースパイシーな珍しいビールもお楽しみ頂けます。
定期的に本だけに留まらない知的好奇心を刺激するイベントを開催。
そんなカモシカ書店の店主、岩尾晋作くんのコラム番外編です。
どうぞ、お楽しみください!
番外編 紀行文「ニューヨークは晴れているか?- 前編」岩尾晋作
最初に断っておくと、僕のNY体験はこれが初めてであり、期間はわずか4日に過ぎない。つまり僕よりNYに詳しく、また情熱的に語ることが出来る人は大分にも他にたくさんいらっしゃるだろう。そこでこんな話から始めたい。
以前、インドを何週間かかけて陸路で横断したときにインド人にこう言われた。「インドでひと月過ごしたら、やっと朝食が終わったぐらいのものだ」。今回のNYのように外国まで来て4日しか滞在しなかったのは僕にとってはこれが初めてだ。つまりNYではやっとベッドから出て朝食に取り掛かろうかというところだったのかもしれない。
ときに、飛行士として地球上を飛び回ったサン=テグジュペリは述懐している。あらゆる旅の中で、ベッドから朝食の席に行くときほど長く感じる旅はなかった、と。
期間や距離に関係なく、ひとり、自分と向き合う旅が僕は好きだ。旅によって日常を離れるのではない。日常の正体は外部環境ではなく、紛れもなくこの自分自身なのだと認め、海の向こうまで己を引きずって歩く。静かなところで自分のざわめきを聞き出し、騒がしいところでは自分の空虚さを思い知る。そしてなおどのように生の意味を求めて生きていけるかを、探し続けるような旅が必要だ。
今回の名目は「NY美術館を巡る旅」。武蔵野美術大学芸術文化学科の新見ゼミ生とカモシカ書店スタッフと常連さんたちの総勢12人ほどのメンバーで敢行された。大分組の20歳の学生がパスポートを大分に忘れたトラブルを奇跡的に乗り切った僕らは13時間の飛行に耐え忍び、ラガード空港に着陸。入国管理の長列に並びながら僕にとって初めてのアメリカの空気を吸い込んだ。空港は殺伐とし、装飾もなく、トイレも日本の田舎の公衆トイレのように、最低限これでいいや、という程度に手入れをされたもので、世界一の都市の玄関としてはその質素さに意表を突かれた気がした。それだけ身構えていたとも言える。
空港からミッドタウン地域に着いても東京都心部のようなピカピカのメガロポリスの体裁とは全く違う。かといってパリやアヴィニョンのような歴史都市の格式にも欠ける。僕の知る限りではインドのムンバイやゴアのような街に似て、表にはまず粗雑さと混沌、そしてその奥底に何かを秘匿しているに違いない妖しさを感じていた。そこで僕はホテルに到着後早速グッゲンハイム美術館に行くという仲間たちと離れて、ひとりで周辺を歩くことにした。
この時点で僕は「NY美術館を巡る旅」で美術鑑賞を切り捨てたと言える。その時間を惜しんでまずは街を見なければならないと感じたからだ。それほどこの街には取り付く島がない。まず外国人に関心がないようだ。というより人種の入混じりが激しく、誰が外国人なのかわからない。つまりよそ者として珍しがって僕の顔をじろじろ見てくるような人は文字通りひとりもいなかった。珍奇の目を期待していたわけでもないのだがそれでも自分が透明人間になったように思えた。次に道に親切さがない。路上にマップもなく公衆トイレなどどこにもない。飲み物ひとつ買おうにも自動販売機は皆無なのだ。スタバに行くと路上生活者が隅っこの席を占拠していることを除けば、このでこぼこだらけの道の町に(病院も見当たらない)福祉やおもてなしを感じ取ることは難しい。
そんなNYという人工物の塊で、知り合いもいないし予め行きたいところもない。そこでCiti bikeを発見した。それは要するにレンタルサイクルでCiti bankが運営し、30ドルほどで3日間乗り放題。スマホのアプリで支払いを済ませたあと僕はひたすら自転車に乗ることになる。アプリで振り返ると3日間で31回乗り換え、延べ7時間に渡りペダルを漕ぎ、移動距離は84キロになる。
僕がグーグルマップで検索したのはまずは本屋。そして骨董屋や古着屋。アメリカでは最大手の書店チェーンが倒産したことに象徴されるように都市規模に比して書店が少なすぎる。代わりにカフェがあったり本以外のものも扱っていたり、ギャラリーのように貴重な本を並べる書店が点在している。これは日本の未来である、とは思うのだが書店の衰退の論理は我々と実に身近なもので、特に目から鱗というほどでもない。本屋以外の他の業種にしても同じように僕には思えた。
僕がすでに知っている配列だ、と東京に暮らしていたときのマンネリが蘇ってくる。名もなく金もなくただの団体旅行者のひとりに過ぎない僕に、4日間では面白さは微笑まない。
そろそろへそを曲げてホテルで本でも読んでいようかというとき、インスタグラムに英語でメッセージが来た。マットという人が、大分とカモシカ書店に来たことがあって、NYにいるなら一緒にコーヒーでも飲まないか?ということだった。(続)
古本 新刊 喫茶
【営業時間】
11:00 – 22:00
【定休日】
月曜日
【住所】
大分県大分市中央町2-8-1 2F
【website】
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