2014年5月、大分市中央町に誕生したカモシカ書店。
古本を中心としながら新刊も取り扱い、カフェとしても気軽に利用できる癒しの場。
手作りケーキやこだわりのコーヒー、水曜日のネコというフルーティースパイシーな珍しいビールもお楽しみ頂けます。
定期的に本だけに留まらない知的好奇心を刺激するイベントを開催。
そんなカモシカ書店の店主、岩尾晋作くんのコラム第十三話です。
オムニバス的に一冊の本を紹介していく人生の短編集。
どうぞ、お楽しみください!
なお、紹介されている本は実際にカモシカ書店で購入することができます。
※すでに売切れや非売品の場合もありますので、ご来店前にカモシカ書店へお問い合わせください。
第十三話「じゃじゃ馬ならし」 ウィリアム・シェイクスピア 松岡和子 訳
久々にカモ空を書かせてもらうことになった。
というか本当は毎月書かなければならないのだが、恥ずかしいことに怠けて書いていなかっただけだ。
一応いくつか理由もあって、ひとつにはもうすぐ新刊の取扱を本格的に始めようとしていて、きちんと在庫を持った上でカモ空で取り上げる、というふうにやりたいと思っていたからだ。
しかし新刊の契約に時間がかかっていたらカモ空を新しく書く契機が失われていたのだ。
関係ないが最近カモシカにカウンターとハイスツールを設置した。
カウンターは静岡から送ってもらった松で、長さ3850ミリ、幅500ミリ、厚さ40ミリという巨大な木材で、運ぶのは大変だった。
塗装はオイルステインという木目を覆わない塗料を使い、屋上で塗装した。
この塗装も、組み立ても、デザインも、何もかも自分でしたのも聞いてほしいことなのだがそれよりも仕上げのほうが大事である。
水気があるところはウレタンで仕上げたほうがシミなどが付きにくく便利なのだが、ブライワックスという昔ながらの蜜蝋で仕上げている。
ウレタンは物理的に木材を覆ってしまって、木肌に手が触れられなくなってしまうから、カウンターでは避けたかった。
蜜蝋だと滑らかになった木肌に直接触れることで素材の真価を味わえる。反面、水ジミがついてしまうのだが、蜜蝋を上がけしてメンテをすることでいくらでもきれいになる。その手間がさらに愛情になる。
そもそもカウンターを設置したのは府内にある「ロイドコーヒー」というお店に、私が元気がないとき吸い込まれるように入り込んで、オーナーとカウンターで話していたらかなり救われた、という経験があったからだ。
私もそんなふうに、誰かの言葉を受け止めたいと思ったのだ。
そのときはカウンターも同時に言葉を受け止めてほしい。座る人の言葉や熱や魂を少しだけ、吸い取りながら育っていく。
そんなカウンターを作りたかった。
蜜蝋で仕上げたことで、カップ&ソーサーのソーサーや、コースターのそもそもの存在意義がわかった気がする。
蜜蝋は熱にも水にも強くない。だから熱い飲み物にはソーサー、冷たく水蒸気がついてしまう飲み物にはコースターが、木肌を守るために必要なのだ。
ウレタン仕上げのものばかりの現代、知っているようで忘れてしまっているそれぞれの存在意義なのではないだろうか。
以上あまり長くもない前置きだが、本題に入ろう。
今回はお題をいただいている。シェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」である。
シェイクスピアは読み漁ったわけではないが比較的に好きだと思っていて、福田恒存訳の「ハムレット」や「リア王」の読書感は記憶に残っている。
ハムレット王子の言い回しや、王族としての振る舞い、リア王の冒頭の、「きれいはきたない、きたないはきれい」なんかは特に好きで何かとよく話題に上げたことがある。
今回は訳者を指定されているので初めて松岡和子訳で「じゃじゃ馬ならし」を読んだのだが、実に丁寧な翻訳で、驚かされた。
翻訳の根拠をページ下に注記していて、該当する部分の原文を古英文のまま載せてくれる徹底ぶりである。
諺(ことわざ)や当時の風習や神話や聖書に至るまで参照して解説してくれるので非常に面白い。
それにしてもじゃじゃ馬は登場人物が多い。その上、ホーテンショー、ルーセンショー、グルーミオ、グレミオーというふうに、名前が紛らわしい。
さらに劇中劇の上、劇中劇の中でさらに登場人物が別の登場人物の替え玉となり演技するというメタメタドラマな展開で非常にわかりにくい。
一気に読まないと、読了するのは不可能になるだろう。
ただ内容を知るのならやはり福田恒存訳のほうがいいのかもしれない。日本語の言い回しとしては恒存のほうが美しいと思うし、松岡訳は丁寧な訳注が本来の鑑賞を妨げるようにも思えるからだ。
いずれにしても、むやみにおすすめする読書とは言い難いのが本音である。
戯曲や演劇を本で読むこと自体に無理があるのかもしれないが、それでも「ハムレット」やカミュの「カリギュラ」は震えるほど感動した。
ベケットだって面白いとは言えないが頭を捻らされる気持ちよさがある。
今回のじゃじゃ馬は喜劇だが本で読んでも正直クスりともしないのである。時代背景や訳者のこだわりっぷりを教養的に楽しめはするが。
まあ読まなくていいだろう。
面倒で途中で止めるよりは、最初から本は読まずに演劇で観るべきだと思う。
剽軽(ひょうきん)な人物設定、まくしたてるような悪口の応酬、場面の多さ、など演劇で見るとかなり面白いのではないだろうか。
もちろん偶然ではないのだが、来月末に玖珠で「じゃじゃ馬ならし」が観劇できるそうだ。
カクシンハンという劇団によるものだ。
主宰の木村さんと少しお話させてもらったが、私のひとつ年下で、とんでもなさそうな男である。
まず酒に強い。間違いなく。そして世界を歩いている。よく勉強している。複雑な人生だ。
私は可能性を感じた。すごい男になる気がする。
このあまりに有名で、あまり面白くない原作を、きっとすごく面白く上演するはずである。
わざわざ玖珠で上演するのだから、普通に誰が見てもめっちゃ面白く、笑い転げて忘れられないような演劇になるはずだ。
結局は結婚と男女の話だから、どうとでも現代風、日本風にアレンジできる。
大道具、小道具、音楽、効果音、キャスティング、セリフ、ト書き、稽古。
舞台芸術の手間は想像すると途方に暮れるほどだ。しかも厳密な意味では一度きりのものだ。
うーん。何もできないが応援します。
カウンターとは比べ物にならないぐらい大変だろうから。
古本 新刊 喫茶
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