金魚救い対談。深堀隆介×吉川緑の場合。

大分アートプラザで開催中の深堀隆介 個展「金魚救い」
開催2週間で来場者数1万人を超え、会場では今なお、多くの家族連れや友達同士、恋人と訪れた人たちの驚きと感動の声が響き渡っている。

大分滞在中、ほぼ毎日と言ってもいい程、大分名物「とり天」を食べていたという深堀さん。
今回は大分人よりも大分のことについて考えてくれた深堀さんと、アートプラザイベントディレクターの吉川緑さんの対談です。

吉川さんがいなければ深堀金魚を生で拝むのは、まだずっと先だったかもしれない今回の企画展。
「金魚救い」展が九州で初めて大分で開催された経緯や深堀さんの作品からプライベートまで存分に語って頂きました!

まだの観に行ってない方はもちろん、行かれた方もこれを読んで金魚を観るとまた別の金魚が観えてくるかも!?

「金魚救い」展は8月24日(日)まで!

 

以下、対談

 

Yadorigi編集長 一尾(以下、一尾):深堀さんの今回の展覧会、吉川さんは2年前から計画していたそうですね。

アートプラザイベントディレクター 吉川緑(以下、吉川):そうですね。2年前にアートプラザで「2年後を見据えて大きい展覧会をしないか」という案が出ました。そこで情報収集を始めて、誰を呼ぼうか、どういう感じにしようかって話し合いました。その時はまだ時期を夏休みに合わせることすら決まってなかったんですよ。調べていたらちょうど深堀さんがテレビに出ていた時期で、、

深堀隆介(以下、深堀):すごい出てた時期ですね。

吉川:私もよくTVで観ていたんですが、作品にビックリして、資料を集めてアートプラザのマネージャーに「この方、いいんじゃないでしょうか?」って伝えました。絶対みんな観たいって言うと思うっていう不思議な確信があったんです。で、いいねってなって、あのメールをしました。

一尾:じゃあ2年前に深堀さんに依頼していた?

深堀:そうそうそう。

吉川:ちょっと色々あったけど、問い合わせしてみようかって。たぶん断られるよねって言ってたんですよ。

一尾:吉川さんから直接、送ったの?

吉川:はい。そうしたら運良く九州では展覧会をしたことがないということが分かって、これはいけるかもしれないと思って。大分に興味を持ってもらおうと色々アピールして。笑

深堀・一尾:笑

吉川:OKもらいました!

深堀:その時期はすごい考えなきゃいけない展覧会案が山積みだったので、すぐには実現でなかった。でも、アピールしてくれたので、何とか応えてあげたいなって。資料を戴いた時に結構、広いので、「これ応えられるのかなぁ」っていう不安はありました。僕の樹脂作品は小さめだし、大きい作品がそんなにあるわけではない。ただアートプラザの建物が面白いなって。歴史っていうか、磯崎(新)さんが作られた建物に呼ばれたのかなぁって思って。ただのハコモノとは、ちょっと違うなって。僕の金魚が古い器とかに入るでしょ?何か良い具合に古過ぎず。古過ぎると骨董品としての「美」ができちゃうけど、そういうものよりもみんなが「もうこれ、いらないんじゃない?」くらいの古さ。中途半端かもしれないけど、それぐらいの古さにドキッとくるんですよ。

※アートプラザは建築家・磯崎新氏が1966年(昭和41年)に大分県立大分図書館として建築。1998年にアートプラザとしてリニューアルされた歴史を持つ。

一尾:ブリキの玩具みたいな?

深堀:それはかっこいい方です。それよりもちょうど良いとこで言うと、、ゴレンジャーもかっこいい方だし、、ガオレンジャーとかシンケンジャーとかかな、、

吉川・一尾:笑

吉川:ちょうど人の手から離れたくらいのですか?

深堀:もうみんな格好良いと思わないくらいの。今はもうBOØWYって良い具合の古さがあるでしょ?遅いんです。僕は大学の時にBOØWY、BOØWYって言ってましたから。

吉川・一尾:笑

深堀:みんながあんなに熱狂したのに忘れてるみたいなのが好きなんですね。いい寝かせ具合っていうののもっと早めっていうか、寝かされ過ぎると格好良くなっちゃうので。器でもそういうのが好きで。例えば「磐代が松」っていう僕の作品がありますけど、あれニトリですからね。骨董品じゃないんです。ニトリで売ってる器なんです。ビックリするでしょ?でも金魚のお陰であんだけ変わるんです。金魚が引き立ててくれる。その方が「美」なんですよね、僕にとっては。

一尾:ケロリンの桶とかもいいですよね。

深堀:あれは新しいものなんですけどね。使ってるボロボロのも欲しいなぁなんて思ってるんですけど。

吉川:描きたい器って観た瞬間に金魚が浮かんだりするんですか?

深堀:あ、もうこんなのがいる!って。ばばばばっと。

一尾:へぇー、金魚からじゃなく器からなんですね!?

深堀:良い具合のダサいと思ってしまうぐらいの模様が入ってるものが、金魚が入るとめちゃめちゃ効いてきますから。笑

吉川・一尾:なるほど。笑

深堀:今手元にある面白い器は、ササン朝ペルシアの発掘された器です。たまたま見せてもらう機会があって「金魚がみえる」なんて話ししていたら、「あげますよ」って言われて。「いいの!?」って。古代人と僕のコラボレーション、、

一尾:笑

吉川:古代人とのコラボレーション!笑

深堀:なんかね、僕の美意識にあの(アートプラザの)建物がピッタリなんですよ。図書館だったんですよね?「図書館じゃん、ここ」って思ったけど、ああやって金魚が飾られると「あれ、この空間いいな!」って思えてきて。みんなが古いと思った器にさ、金魚が入った瞬間に「この器いいね!」って、わからせてくれる。そんな気がするんですよね。僕の中でアートプラザはちょうどいい寝かし具合だと。笑

吉川:新築のギラギラ感もなく、かと言って古ぼけてもなく。

深堀:古い室町時代のお寺は趣深い。そういうんじゃなく、取壊されるかの瀬戸際の建物。もう1個(※注1)は取壊されたわけでしょ?そういうのがすごく好みなんですね。実際に吉川さんが打ち合わせに来て、そういうところって大抵よくある展示会場の雰囲気になっちゃうかなって思って、最初ちょっと心配したんですよ。移動式の壁を使って仕切ると展示しやすいんだけどせっかくの窓からの景色がなくなっちゃうし、なんかこう展示会場っていう感じになっちゃって、、

(※注1 後にアートプラザとなる大分県立大分図書館の裏にかつて建っていた磯崎新氏建築の大分県医師会館のこと。大分図書館と共に取壊されることになったが、議論の末、大分図書館はアートプラザとして活用再生されることとなり、医師会館は取壊されてしまった。
)

吉川:最初は展示会場っぽくする予定でした。

深堀:でしょ?それだと、、

一尾:あの建物でやる意味が、、

深堀:せっかくの建物が、、

吉川:私はあの建物の空間がすごく好きなので、深堀さんの作品を調布まで観に行った時に、やっぱりアートホールの空間や景色を活かしたほうがいいなぁと思い直して。けど深堀さんがどうおっしゃるかわからなかったので少し賭けではありましたが。展示会場らしいほうが良いって言うのであれば壁で仕切って、、

深堀:壁を使うと作家的にも展示しやすいから助かるんだけど、、すごい最後の最後まで悩んだんですよ。壁を取っ払うっていうのは結構、勇気いるし。絵もいっぱいあるのに。どうしようって。調布の時も本当は壁いっぱいあるんですよ。

吉川:そうなんですか?

深堀:全部、取ってもらいました。

(料理が運ばれてきて・・・)

深堀:やっぱりこっちの人は美味しいもの食べてるんですね。

一尾:たまにですよ。笑

深堀:いやいや。笑。山口県とかでも食べたの覚えてるんですけど、鯛とか普通のイワシでも色が違う!目の色とか、青々して。ものすごい美味しかったの覚えてるんですよ。普通の民宿で食べたんですよ?おばちゃんが台所で作ってる。めちゃくちゃ美味いと思って。

一尾:子供の頃からこっちの回転寿司食べてて、その感覚で東京で食べたら、、

深堀:ビックリでしょ?

吉川:そんなに美味しくないんですか?

深堀:比べたら美味しくないかな。笑。昔、静岡の焼津港の回転寿司に行ったら、めちゃくちゃ美味しくて。やっぱり土地で違うんだなって思って。笑

吉川・一尾:笑

吉川:大分は食べ物には恵まれてます。

深堀:水がいいね。

吉川:水ですね。「お~いお茶」も大分で作ってるらしいですよ。

深堀:だから、お~い(た)、、関係ないな。

吉川:関係ない。笑

一尾:笑

深堀:大きい田から、オオキタ、で大分になったって聞いたんですよ。で1つ謎が解けたんですよ。「タ」と付く所、博多とか田んぼの意味かなと。

一尾:秋田とかまさに。

深堀:そう。で、オオイタでしょ?もしかして井桁の「井」ってあるでしょ。あれ田んぼを分ける「井」で、木の板は弥生時代から田んぼを分けるために使われていて、、イタってそこかぁって。これは推測ですよ。笑

一尾:そこまで大分について考える人、なかなか居ないですよ。笑

深堀:飛行機の中でずっと考えてた。大きい田んぼを分ける板(井田・・いた・・)、、これだ!と思って。

吉川:そこまで考えてるとは、、

深堀:好きなんですよ、考えてることが繋がるのが。文献読んだら書いてあるかもしれないけど、そういうのあんまり信じないんです。僕は歴史でも何でも文献だけを信じるのではなく、自分で考えることが好きなんです。そうすると考える脳の筋力みたいなものが養われると思っているんですよ。

吉川:4月に深堀さんが会場下見にいらっしゃった時に、アートプラザ周辺の町はなんで「荷揚町(にあげまち)」っていう地名になったのか?という疑問を、昔の地図と現在の地図とを照らし合わせてみんなで考えていて。地図によると荷揚町は、府内城に着いた船からの荷物をあげていた場所だったということが分かったんです。だから荷揚町なんだって。

深堀:住んでると気付かないんですよね。荷揚町は荷揚町。なんで中島なのかとかね。島があったのかとか。日本人は地名変えないんですよ。神が付けた名前を変えられなくて昔から続く名前ってそのままなんですよね。例えば昔の人は大沢崩れとか「ここに住むな!」っていう名前を付けてくれてたんだけど、現代になって「ふれあい町」みたいにしちゃうから、その土地の性質を知らずに住んで危険に気がつかないこともあるんじゃないかな。馬鹿かもしれないけど博多からどうやって邪馬台国へ行けるのか未だに毎日考えますよ。高崎山が奈良県の畝傍山にすごい形が似ているんですよ。推測ですけど、奈良は畝傍山(うねびやま)と耳成山(みみなしやま)と天香久山と3つの山に囲まれてるんですけど、なんでここに都を置こうと思ったのか、この真ん中に。もしかして畝傍山は高崎山に比定してるのか?とか、天香久山っていうのは富士山に見立ててるんじゃないか?とか。小さな日本をここに見立てたんじゃないかっていうのを高崎山から推測してみました。笑

吉川・一尾:すごい!笑

深堀:そういうのを話すとすごい皆笑ってくれるんですよ。笑。僕も全くの想像で喋っちゃうんですけど、それが実は金魚を描く時にすごく密接に繋がってるんですよね。何で古代史と金魚が?江戸じゃないの?ってみんな思われるかもしれないけど。古墳の形も金魚の形だし。日本人が金魚好きっていうのは昔から決定付けられてると僕は思うんです。あんまり言うといろいろありますから。笑。中国っていうのは王朝が変わるように金魚の品種もどんどん変えてしまうんですよ。中国は新しい品種を生み出そうとする。日本は1つの品種に拘ってその品種をよりよくしようとする。僕は両方わかる。以前、品種のことを馬鹿にしてるって怒る方がいたんです。でも僕は人間がフナを改良しただけでもあると言いたいんだけど。そういうことよりも日本はランチュウとか土佐錦という品種に拘り過ぎな気がして。元をたどると中国からきたんだということに気付かないと。でも面白いんですよ。金魚作ってる人は僕みたいな考えの人もいて、おもしろい金魚を作ってる人もたくさんいるんですよ。

吉川:深堀さんに会うまでは金魚を品種改良して作るものだということを知らなかったので、、

深堀:あぁ、良かった!

吉川:最新の金魚。

深堀:僕もその気持ちなんですよ。新しい金魚ってなかなか生まれないんですよ。僕もそういう感覚で描いてるんで。毎日が新しい品種なんですけど。今日も樹脂の作品を制作してきたんですけど、今作ってるのはすごいですよ、僕の中で「キター!」と思って。離したくないと思って。笑

吉川・一尾:笑

吉川:お客さんでもちゃんと観てる人は品種に拘ってないというか、深堀さんが金魚を生み出すつもりでやってるっていうのをわかって帰られるお客さんもいますよ。

深堀:いやぁ嬉しいな!

吉川:こちらが何も説明しなくても、ちゃんと観てる人はわかるみたいです。

深堀:東京の本郷に300年くらい続く金魚坂っていうのが東京大学の前くらいにあるんですけど。そこのおかみさんが嬉しいこと言ってくれましたよ。ある取材で記者がこんな金魚いないですよ!って言ったんですよ。そしたら「何言ってんの、夢の金魚よ」って言ってくれて。あぁうまいこと言ってくれるなぁって。さすが!ずーっと金魚観てる人は金魚の品種っていうものはあやふやだし、どんどん新しいのも出てくるし。その養魚場、養魚場で同じ出目金でも全然違うわけですよ。作っている人の選定によってものすごい金魚が生まれますから。その方の美意識によって作られているんですね。

一尾:なるほど。作家にとっては美意識という点において展示方法も重要だと思うんですけど、今回の展示の仕方は予めイメージとしてあったんですか?

深堀:吉川さんが打ち合わせに来てくれた時に半分、実際大丈夫かなぁって思ったんですよ。僕が「ああいう広い場所だったらタイル台を作ってぇ、、」とか言ったら、、「いいじゃないですかぁ!そういうのやりましょうよ!」って言ってくれた時に本当に大丈夫かなぁって。

吉川:そういうふうに言ってくれると思ってなかったので、すごい安心したんですよ。深堀さんの中にイメージがあるんだなって。

深堀:僕と水谷(マネージャー)さんでタイル台が重いのも知ってるし、タイルをどうしようって。何万枚必要っていうこともわかってたし。でもやれたらいいなっていうくらい、、自分でも夢だったし、あんな形で観せられたらいいなと思って。LIXILさんにご協賛いただけたのは本当に大きかったですよね。

吉川:LIXILの支店長さんもとってもいい方で心から感謝しております。

一尾:大分市って別府みたいに観光資源があるわけでもなく、たいした特徴はないんですけど、「こういう事がやれたらいいな」って思ったことが実現できる人材が必ずいる。人のポテンシャルがすっごいあるんですよね。あのタイル台は大分で作ったんですか?

吉川:そうですね。新建工房という業者さんが作ってくれました。現場でひたすら職人さんがタイルを付けてくれて。その職人さんも新建工房さんが選りすぐりの職人さんを呼んでくれました。

深堀:いやぁさすが!

吉川:その職人さんも「こんなに貼ったのは久しぶりだ!」って。笑

深堀・一尾:笑

吉川:関わって頂いた人たちが良くしようと動いてくれていたので。

深堀:本当に夢だったんですよ。タイル台がひろがった中で展示するのが。これからの自分にとっても1つのアイディアとして壁がなくても空間を区切れるんだ、とか。これからもLIXILさんにお願いしたいと思っています。笑

一尾:吉川さんが担当した展覧会に関わった作家さんとはYadorigiで話をさせてもらう機会があるですけど、みんな新しいことにチャレンジする勇気をもらってるし、終わった時には経験と自信をつけてるんですよ。なんか不思議なパワーを持ってるんでしょうね。笑

深堀・吉川:笑

深堀:これから、もっともっと巨大な空間で展覧会をする機会があるかもしれない。こんなところに人を歩かせたいとか、タイル台が浮いて動かしたいと思うかもしれない。その第一歩が今回の大分での個展だったと思います。なんでもそうなんですけど今のレベルまですぐに来れるわけじゃない。なんでも少しずつやってきて、ようやく細かい所まで気を遣えるようになっていく。3Dプリンターとかでなんとか形にできちゃったり、アイディアだけで済ませちゃったり。でも人間の手業だとそう簡単に納得のいく領域っていうのは行けないと思います。10年後の深堀展があったら、あの時ああすれば良かったって10年後の自分は思うんですよ。今の自分が昔のを観ても、あの時ああすれば良かったなって思うわけで、いきなり最初から今回の展示のようにはいきません。その過程の1つに今回の展覧会はなったなぁと思います。昨日Facebookで、ニューヨークのギャラリーのジョシュア(・ライナー)さんがシェアして、宣伝してくれました。さらに広がると思います。

吉川:芸術にあまり親しみがない方は、芸術家は素晴らしい作品を魔法のようにすぐに生み出せると思っているかもしれないけど、実際はそうではないじゃないですか。一般的に展覧会に出品されている作品って、その多くは作家が自信のあるものだったりしますが、今回は下積みの時代のものも展示していて、今に至る過程をちゃんと観れる展覧会というところが醍醐味になっているかなと。

深堀:作家としては不安な部分もあるんですよ。昔の自分の作品が並んで、、でもそれだけだとやっぱり嫌なんですよ。作品が無いからといって、今じゃない昔のやつをっていうのはすごく抵抗あるんです。「なんだ、深堀もまぁまぁだな」とか言われてもっていうのもあったし。「それは違うんだ!昔の作品なんだ。」って心では叫んでたんだけど。笑

吉川・一尾:笑

深堀:そういうこともあったけど、今回みたいに並ぶと俯瞰して観ることができる。例えば、こんなに高いビルとか建物を建てれるんだったら、もっと早くに建てれたと思うんですよ。人間の能力はあるんだから。縄文時代ですら頑張ればビルくらい建てれたかもしれない。建てれる能力はあるのに何で出来ないか?ってことです。ライト兄弟だって、飛行機を作って何十mしか飛ばなかったけど、その第一歩があって今があると。そこに到達するまでの過程があるんだなぁと。最近すごく感じるんですよ。自分はすぐに完成系に行きたい行きたいっていう願望が強かったんだけど、それだとストイックになり過ぎちゃうし。作品が出来たら以外とつまんなかったりするんです。そうじゃなくて自分が楽しまなきゃなって。だから今年のテーマは「Enjoy」なんですよ。最近、楽しくなってきちゃって。業が云々とかって日本にいるとそうなりがちなんだけど、笑っちゃうような面白い作品を作りたいなって思っています。敷居の高い絵を描いたり作品を作るんじゃなくて。敷居が低いけど「すごい!」と思わせるもの。「これ描いたの!?」みたいな。現代美術ってすぐ小洒落た感じに聞こえるけど、日本人のそういうのって大抵、つまんないんですよ。表面的だったり。お洒落だけど何か違うなって、すごく萎えるんです。欧米の人はお洒落だし、ちゃんと意味があってやってるからビシッと来るんです。

吉川:家とかもそうなんですよね。個人的な感想ですが、外見だけ欧米風にした家って表面的であまり素敵だとは思いません。欧米ではちゃんとそれぞれの素材やパーツに意味があって成り立っているので。

深堀:そうそうそう。自分は今、すごいボロ家に住んでるけど、本当に古くて僕より年上で隙間風とかも入ってくるけど、ボロ家なりに味わいがあるなと思って。「今の家、狭いからそろそろ買いなさいよ!」って言われて見に行くでしょ?だいたいが決まった壁、決まった床とかの組み合わせなんですよ。どこも一緒のような顔してて。住み易いんだろけどなぁって思うんだけど、なんかなぁみたいな。一番良いのは古いのをリノベーション出来たらいんですけど。お金もかかるし、なかなか難しそうだなぁっと。そういう日本のもっと良い所を利用したいなぁと。日本人を紐解くと昔は中国をお手本として、中国のものだったらなんでもいい、みたいな。だけど明治でお手本を西洋に変えた。今度はすべて西洋だったら何でも良いみたいな。戦後は日本文化は危機的な状況だったように思う。普段着で着物を着る人が少なくなったけど、最近ようやく若い人が普段から着物を着るようになってきた。洋服と組み合わせたり、新しい素材を着物に取り入れだして、外国文化を取り入れながら発展させている。ちょっと前なんか歌のサビがなんでみんな英語なんだって。でも最近のサカナクションとかは日本語でしか歌わないでしょ?やっと来たか!と思って。僕はエレファントカシマシが好きなんですけど、あの人たちは昔から日本語のみの歌が多い。エレベーターとかそういうのは出てくるけど。笑

吉川・一尾:笑

深堀:日本語ロックが好きで、そういうアイデンティティーを大切にしてるのが好きですね。

吉川:たまに全部、英語のバンドとかありますよね。

深堀:上手けりゃいいですけど。笑

一尾:笑

吉川:ニューヨークに行った時はどうでした?日本の反応とは違いました?

深堀:いや、一緒でしたよ。でもめちゃくちゃ優しくされて、日本にいるよりすごい丁寧にしてくれた感じで、僕のような作風がいないんだろうね。向こうの人も手業にすごい神秘性を感じるじゃないかな?昔はニューヨークでは抽象画の時代があったけど、今では僕のような具象でも理解してもらえる。

吉川・一尾:笑

深堀:「どうして、あなたは救われたの?」「いつ金魚に出会ったの?」って目がキラッキラしながら聞いてきて。なんかウケてるなっていうのはわかる。作品は出来た分だけしか持って行かなくて、無理して作らないようにしてるんですよ。無理して作っちゃうと大抵、間を埋める為の作品になっちゃうので。それでも全然良かったんです。お前がそれでいいならいい。意見を言うことは言うけど、僕がそれは嫌だって言ったら「It’s OK」なんです。

一尾:デザイン業もそうですけど作り手は、自分の作りたいものとクライアント目線、さらに消費者目線との間に常に葛藤があります。

深堀:芸術家って、底辺の物作りと上層の物作りの思想みたいなものを常に考えてやらないといけないと思う。どっちかばかりじゃなくて。僕は真ん中が好きなんです、3人兄弟の真ん中なんで。真ん中でちょっと俯瞰して見ると兄貴が出しゃばり過ぎだなとか、弟はわがまま言い過ぎだなとかみえる。よし、僕はそれを踏まえてうまくやっていこうと。

一尾:したたか。笑

深堀・吉川:笑

深堀:最初から前に出ない。様子を見てからすっと寝首を搔くみたいな。様子を窺って強いやつがいたら、まずはすっと引っ込んで、黙る。自分は虎視眈々と技を磨いて、今だ!っていう時にスパッと切るみたいな。笑

吉川・一尾:笑

吉川:私それ出来ないんですよねぇ。

深堀:長女?

吉川:私は一人っ子です。

深堀:一人っ子は難しいな。

吉川:俯瞰出来ないので。

深堀:あれ欲しいって言ったら絶対手に入るから。弟とかいると分けなきゃいけないし。全部取られたから、どうやってアレを取り返してやろうとか、どうやってあいつらに食べられないように隠しとこうとか、、

吉川:そんなこと考えたことないですね。笑

深堀:それが僕を生んだっていうか。笑。本当に。

吉川・一尾:笑

深堀:一尾さんは?

一尾:僕は一番下です。兄、姉、僕です。

吉川:全員立場が違うんですね。

一尾:末っ子も俯瞰で見てますよ。上2人を。あれやったら怒られるとか。しかもワガママというか頑固。

深堀:そうそう。ウチも一番下がいるんだけど、一番ね、親分みたいな態度取るんですよ。笑。

吉川・一尾:笑

深堀:本当に。一番上もそういう態度取るんですけど一番下の方がね、人を顎で使うんです。笑

吉川・一尾:笑

深堀:あれ取って来いとか。やってもらえると思ってる。俺と会うと隆介くんって呼ぶんだけど、「隆介くんコップ取って」とか言うんですよ。ちょっと動けば自分で取れるような距離でも。「これ入れて」とか。本当に人を良く使うんですよ。

吉川:どうですか?一尾さんは?

一尾:「取って来い」とかはさすがに言わないけど、「あれっ醤油がないなぁ」ってアピールしたり、、

深堀・吉川:一番たち悪い。笑

一尾:でも基本的にテーブルに座ったもん勝ちで、立ってる人がいろいろ運ばされる。

深堀:男3人と、女の子が間に入るとじゃまた違うんだろうなぁ。男3人だから取り合いですよ。今では、鍛えられたことに逆に感謝してる。笑

一尾:いくつ違いなんですか?

深堀:1つなんです。下とは2つ。年が近いから。

一尾:あぁそれは喧嘩になりますね。笑。ウチは兄と9つ、姉と6つ違ったのでよく泣かされてました。

深堀:でも遊ぶ物が違うから取り合いにならないじゃん。

一尾:兄の遊んだ物とか着てた物のお下がりでしたからね。

深堀:お下がりないでしょ?当然だけど。

吉川:ないです、ないです。

深堀:ただ兄貴がちょっと上だと中学になって、高校になると小洒落てくるでしょ?そういうのをいち早く着てたっていうか、いち早く音楽とかも、、

一尾:音楽は差が出ますよね、周りと。

深堀:周りがチェッカーズ聴いてる時にこっちは洋楽聴いてたりするから。ハワード・ジョーンズとか聴いてて。そういう意味では恩恵も受けてて。あと兄貴がいると兄貴が開拓してくれるんで、後から行くと「あれ深堀の弟?」みたいな、自己紹介しなくても立ち位置が決まってて、、

吉川:それ羨ましいなぁー、そういうのはないですねぇ。

深堀:だから貴乃花見てるとすごい気持ちわかる。笑

吉川・一尾:笑

深堀:でも真ん中だから両方の気持ちがわかるんです。

一尾:じゃあ小さい頃から心地いい場所というか、立ち位置が決まってたんですね。

深堀:そうかも。だから中庸にいたいって思うし。真ん中にいることで失敗しないっていうのがどっかあって。見たいわけですよ、どっちも。ちょっと偏りましたけどね、金魚で。笑

吉川・一尾:笑

深堀:だから偏りと俯瞰というか、主観と客観みたいな。日本人ってすぐ客観にいくんです。

一尾:相手を思いやる精神がありますから。笑

深堀・吉川:笑

深堀:私はこれが好きだからこういう作品を作ったで終わっちゃう。だけど、それが社会的にどんな意味があるかとかあまり考える人少なくて。好きだから何でもいいのかって。考える前に手を動かせって言うけど、それもわかるし、作る前に考えるのもわかるし。

吉川:考えるのは悪だって言ってる人は結構、、

深堀:いますでしょ。あれはちょっと違うなって。やっぱり考えなきゃダメだと思うし。

吉川:説明出来るのが悪とも結構言いますよね。でも説明出来てもいいと思います。

深堀:ごちゃごちゃ理屈じゃなくて。言われた瞬間に「なるほど!」って思えるっていうかね。必然性のある説明はあってもいいと。そういうのにも僕は対抗して何で金魚かっていうのは色々と自分の中で理屈があるわけですよ。だけども、「考えてないで手動かせ!」って言う人に対しても納得がいくように、時間かけて描くわけです。そうすると誰も文句言わないでしょ。そういう日本人に対してもアピールし、外国の人たちに金魚とは何だ?とか何で金魚だったのか?とかも一応、考えておいて言葉にも落とし込む。海外の人は言葉というものをものすごく信頼してる。「光りあれ」っていう言葉で聖書は始まってて、言葉に対しての絶対的な信頼があって。言葉で何でも説明出来るっていうのが海外の人かなって。そういうのもミックスされてる日本人っていうのが僕の作風になってる。何でもありっていうか、批判しないというか。何でも受け入れた日本人を表現してる。説明も出来るし、説明がなくてもいいと。金魚は金魚。ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ考えててもスランプを救われて「金魚救い」って言ってる馬鹿な奴が、どこまで行くのかな?みたいなのを見てもらいたいと思っている。単純な話。僕自身見てみたい。

吉川・一尾:私も(僕も)見てみたい。

一尾:まだまだ展覧会は続きますが、今日は長い時間、ありがとうございました!

深堀・吉川:こちらこそ、どうもありがとうございました!

 

 

深堀隆介Riusuke Fukahori

 

1973年 愛知県生まれ。

1995年 愛知県立芸術大学美術学部デザイン専攻学科卒業。

2000年 スランプ時に、7年間粗末に飼っていた金魚に初めて魅了される”金魚救い”が起こる。

2007年 アトリエ”金魚養画場”を横浜に開設。

【主な個展】

2005年 東京国際フォーラム・アート・ショップ エキジビションスペース/東京

名古屋松坂屋本店 Mキュービック個展/愛知

2009年 Galerie an der Pinakothek der Moderne/ミュンヘン

2011年 渋谷西武/東京 ICNギャラリー/ロンドン

2012年 池袋西武本店/東京

国立新美術館ミュージアムショップ SFTギャラリー/東京

ハーバーシティギャラリー/香港

2013年 調布市文化会館/東京

Joshua Liner gallery/ニューヨーク

 

【主なグループ展とアートフェア】

2007年 TCAF/東京(08’)

2008年 SHANGHAI ART FAIR 2008/上海

2013年 Joshua Liner gallery/ニューヨーク

 

 

~ 深堀隆介 個展『金魚救い』 ~

 

【開催期間】

2014/7/21(月) – 8/24(日)

【時間】

10:00-18:00 (最終入場は17:30まで) 金・土曜日は19:00まで開催(最終入場は18:30まで)

【会場】

アートプラザ 2Fアートホール

【お問い合わせ】

〒870-0046 大分県大分市荷揚町3-31

TEL:097-538-5000 FAX:097-538-5060

MAIL:info@art-plaza.jp

HP:www.art-plaza.jp

 

【関連イベント】

■深堀隆介 映像作品上映@the bridge

大分市中央町の芸術文化系複合施設the bridgeにて、深堀氏の映像作品を上映します。

上映期間: 展覧会会期中の営業時間中(11:00‐24:00)

場所:the bridge 大分市中央町3-3-19

※定休日、貸切等の場合は上映できないこともございます。

詳しくはお電話にてお問い合わせ下さい。TEL:097‐532‐6656

 

■大分市府内5番街商店街とのコラボ企画

夏はゆかたde五番街を開催!

詳しいイベント内容はこちら。 https://www.facebook.com/events/798235060220973/

 

■アートプラザ担当スタッフによる作品解説(観覧料が必要です)

日時:展覧会会期中の毎週日曜日 14時~

場所:展覧会会場

 

■レストラン・ビッグホース 期間限定スイーツ

アートプラザ1階のレストラン・ビッグホースに、展覧会会期中限定のメニューが登場します。

金魚の涼やかな雰囲気をイメージしたスイーツをお楽しみに。

時間:11:00~17:00 ※月曜日は定休日です。

 

最新情報はFacebook公式ページで随時更新します。

check!→https://www.facebook.com/goldfishsalvation

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