Pickup対談。勝正光×吉川緑の場合。

現在アートプラザで開催されているPickup Artist Exhibition vol.3。

参加作家である勝正光さん(鉛筆画家)と展覧会のコーディネーターである吉川緑さんによる対談。

趣味のサッカーからSanta Feの話、なぜあえて鉛筆画なのか?その答えが明らかに!

 

吉川緑(以下、吉川):私ずっと勝さん、名前だけ知ってて。一昨年のアートマーケットの時にようやく。

勝正光(以下、勝):
ここで混浴温泉世界2012をPRするためのブースをBeppu Projectが出して、せっかくだから清島アパートもアピールしようよ!って言ってくれて。

吉川:そうなんですよ。

勝:で、清島のアートマンス2012企画もここでついでにアピールさせてもらうっていう時に来て、ちゃんと会いました。

吉川:そうです。

勝:それまでも会ってたような気もするけど。

吉川:なんか会ってたような気もするけど、ちゃんと話した事なかったんで。

勝:これどんな感じ?吉川さんが聞きたい事に答える感じでいつも?

Yadorigi編集長一尾(以下、一尾):はい。

勝:作家の事をあんな風に聞き出せたらいいのになぁって思う人いますよね?

吉川:そうなんです。

勝:芹沢さんとか凄く上手くて。

吉川:あぁ、もう全然聞き出せない。。

勝・一尾:あははは

一尾:中途半端に情報を知ってしまってると逆に難しくなるよね。プロフィール、目、通さない方がいいんじゃない?

吉川:いいかな、、ご趣味は?

勝:ご趣味!?笑

吉川・一尾:あははは

勝:本当にセコい考えもせず、直球で素直に答えるならサッカーです!

吉川:サッカーずっとしてたんですか?

勝:ずっとしてた訳ではなく、高校の時にフランスW杯があって、こんなに面白いものが世界に、この世の中にあるのかと思って。

一尾:フランスってことは98年。

勝:98年の予選をしてた97,96年くらいの時に観ててW杯を目指して日本が戦ってるあの熱狂ぶりが凄くて。サッカーは何となくミーハーな感じで小学校のリーグ開幕戦の時から見てたんですけど。そこで火がついて。自他共に認めるサッカー狂です。ホテルも観戦チケットも無いのに2006年にはドイツまで行ったりとか。

吉川:ドイツで何してたんですか?

勝:ドイツで観てましたよ。サッカーを!笑

吉川・一尾:あははは

勝:観戦チケットないけど、大画面があってパブリックビューイングもレベルが違うんですよ!本場っていうか、ヨーロッパは。メイン通り、日本で言ったら東京の明治通りを全部封鎖して何m置きかに両サイド、ドンドンドンって。

一尾:そんないっぱい!?

勝:ボーンって置いてあって、その両側でフランクフルトとビール売りまくってる。

吉川:何日くらい行ってたんですか?

勝:一週間くらい、決勝戦に合わせて。電車24時間走ってるんで、乗って行ったり来たりして、起きてここだ?みたいな。とりあえず降りてみたりして。サッカー4年に一度W杯っていう病気が発症するんです。今年、ブラジル行きたいけどね。発症してられる歳でもなくなってきたから。でもブラジルW杯は観たいんですよねぇ。王国ブラジルで。生きてるうちに無いですよね。もう絶対。

吉川:ブラジルに行けばいいじゃないですか?一人で。

勝:一人で行きます!絶対行きます!本当は予選1ヶ月前くらいから3ヶ月間行きたいんですけど、さすがにダメかな、、でも行っちゃおうかな。

吉川:いつでしたっけ?W杯。

勝:6月の何日からか、、もうすぐじゃないですか!?

一尾:ねぇ、あっという間ですよ。南アフリカから。ちょっとは作品について話しますか?

勝・吉川:あははは

吉川:あの「Draw you」は、ひたすら無心で描くんですか?

勝:無心・無音で描いてます。

吉川・一尾:あははは

勝:音ある時もたまにありますよ。かけながら描くっていうよりは聴きたい曲をたまーにかけますけど。

一尾:聴いてる曲で描くテンションとか筆圧とか変わったりしないですか?

勝:ないです。

吉川・一尾:あ、ないんだ。

勝:基本聴かない主義で、音楽聴いてる時に逃してる音があるはずって思って聴かないです。滅多に。

吉川:勝さんのアトリエに初めて、いや初めてじゃないか、、近藤さんと一緒に観に行った時にアレがあったんですよ!宮沢りえのヌード写真集!

勝・一尾:Santa Fe!

吉川:そう、Santa Feを初めて観たんですよ。

勝:Santa Feは最初はただの直感で置いてたんですよ。絵は反応を口に出さない人がいますけど、ま、絵の鑑賞の仕方はそれぞれだからいんですけど、Santa Feはねぇ、「あっSanta Feだ。」ってつい言っちゃう人多くて。

一尾:仕掛けてた。笑

勝:絵で食いつかなかったら、Santa Feで食いつかせるみたいな。今はSanta Fe無いんですけど。

吉川:えっ、今もう無いんですか!?

勝:うん、置いてない。隠してる。笑

一尾:次は菅野美穂?

勝:いやー、でもそれはちょっと違う。Santa Feはやっぱり、、

一尾:ノスタルジックさが?

勝:ノスタルジックもあるし、老若男女問わず知ってるんですよね。Santa Fe共通体験みたいなのがあって。

吉川・一尾:あははは

勝:見たことない人でも存在は知ってたり。チェルフィッチュっていう今一番最先鋭なコンテンポラリー劇団がいるんですけど、その劇作家の岡田利規っていう人が別府に初めて来た時に清島アパートにも来てくれて、その方でさえSanta Feに引っ掛かってた。

吉川・一尾:あははは

一尾:まんまと。

勝:まんまと引っ掛かって、「Santa Feだぁ。」って。「僕、宮沢りえと同い年なんだよね。」とか言って、「でも当時は同い年なだけに刺激強すぎて観れなかったんだ。」って言って。

吉川:これ裸で崖のとこに立ってたりするじゃないですか?どんな気持ちなんだろうって、話してて。

一尾:でも晃子ちゃんなら裸で崖の上から川に飛び込んでそうじゃない?

勝:そうやなー、するかもしれんなー。

勝:晃子ちゃん?

吉川:近藤さんは野生児なので。

勝:そんな感じなの?笑

吉川:私一緒に佐伯の川に行って遊んだりしてるんですけど、私は水着来てたんですけど晃子ちゃんなぜか持ってきてなくて、何のつもりで来たん?って思って。自分は前日泳いだから今日はいいやって言ってたのに、私が泳いでるの見たらだんだん泳ぎたくなって、とりあえず薄着になって泳ぎだして、「コイツ、野生児や~。」って思って。笑

勝:あははは

吉川:Santa Fe、、

勝:それだけの共通体験を日本にもたらしたSanta Feはやっぱりちゃんと観とかんとなって思って。ちゃんと観た事は今までなかったので。僕も出たての頃、お母さんがお母さんの友達から借りて来てて、リビングにある時にコッソリ観たんですけど。小6か5の時。冷静に観れないんで今になって冷静に観てみようと思って。

吉川:それが勝さんの部屋にあるのが面白くて。ここにあるんだーって。笑

勝:あれ、いいですよね。それが印象にあったと。

一尾:Santa Fe自体はどこで入手したの?自分で買った?

勝:いや、それは清島に集まる仲間が大分市内の巨大な古本屋が潰れるって言って、ちょうど遠藤一郎くんが水戸芸術館で漫画展をやるっていう連絡があって、漫画が欲しいってなって。美術展のバイトとして古本屋を片付けるっていう事になって。その時に携わってた女の子の一人がSanta Feだけは清島に置いとこうって。そのSanta Feです。笑

吉川・一尾:あははは

勝:Santa Feはただの写真集を超えてます。

吉川:本当、綺麗だし、いやらしくない。

一尾:本当に人気絶頂の時でしたもんね。

吉川:そうなんですか!?

勝:それこそ写真集でしょ!

一尾:メディアの露出が無くなったから出すんじゃなくてね。

吉川:宮沢りえは凄いですよね。この間の代役を務めたのも凄かったし。

一尾:そう言えば吉川さんが一番聞きたかったことは?

吉川:そうだ!大阪出身ですよね。大分に来たのは何かキッカケがありました?何で大分に来ようと思ったのかって。

勝:一番のキッカケは遠藤一郎くん。2008年の1月くらいに知り合っていて。で一緒にサッカーしたりとか遊んでいて。2009年に一郎くんが混浴アパートメントのコーディネーターしていて企画を動かす事になるんですけど、その時に「勝くん、別府ってのがあるんだけど、行くでしょ?」って聞かれて。

吉川・一尾:行くでしょ!って?

勝:その場で行くって言ったんですよ。一郎くんもどこまで想像して誘ってくれたかはわからないけど、その頃、東京で悶々とした日々を過ごしていて。でもどうしたらいいかわからない状況で、もう環境変えるしかないって思えて。別府に印象もなかったけど一郎くんが言うなら間違いないって。

吉川:来てどうでした?

勝:来てみたら、もっと自分のアトリエに隠って展示するだけっていう以外のことをどう作り上げれば、どう探し出せばいいかわかんないなって。どっかにあるはずだけど見つからないっていう状況だったのが別府に来て「あぁなんだ、あるじゃねえか。」って。会期中の滞在っていうのが名目でしたけど、そのまま。

吉川:5年目ですね。

勝:5年経っても足りてないですけど。

吉川:でももうなんか、すっかり別府の人。

勝:最初は自分がその土地に根付くのが一番だと思って制作もほっぽり出して町の行事に参加したりとか。

一尾:別府に来る前から、鉛筆画だったんですか?

勝:来る前から。でもああいう黒い作品ばっかりでした。

吉川:あのクールって言われてる。外国の人にクレイジーって言われてる。笑。鉛筆を主に使い始めたのはいつぐらいから?

勝:大学の卒業制作を鉛筆の作品で発表して。それが学生時代あまり考えずに学部選ぶ時も空間演出デザイン学科っていう、まぁ絵を描いていたことはいたけど、でもそんなに生業としてやるとは思っておらず。だいぶ何となくの選択だったですけど、その時出会った人たちに恵まれて、卒業制作で初めて自分の表現と言えるものが出来たと。

一尾:なんかでも別府でずーっと書き続けて、別府以上に自分の力を出せる場所があるんじゃないか?とか東京の悶々に近い状態になることはないんですか?

勝:今んとこなってないです。まだ別府で感じた可能性を回収出来てないっていう想いが強いので。まだまだこうやったらどうなるんだろう?みたいなことが乾いてないので。まだですね。でもきっと訪れないんじゃないかっていう想いも。

吉川・一尾:あははは

勝:5年間やってきて、やればやるだけ次のものが見つかるので。

吉川・一尾:へぇー

吉川:バーベキュー大会したりとか、地域の幼稚園に行ったりとか、地域の人と交流を持ってるじゃないですか?ああいうとこから、どんどん可能性っていうか見つかるんですか?

勝:そうですね。それは地域に根付くためにやってる気もしますけど、今回展示してる作品の題材もそういうとこでの出逢いがキッカケだったりもします。裏の作品も最初は映すっていう見せ方はせずに、ただ黒く塗ったものを置いてあっただけで。何かもっと荒い筆圧で紙がヒョロヒョロだったりもしたんですけど。あれは映り込むように均一にして。

吉川:最初から映り込ませるのが目的じゃなかったんですね。

勝:それ、別府の人との出逢いによりけり、反応していく。もしかしたら、もっと映り込む事を主題にした見せ方をすると観に来た人それぞれの見え方が出来るなって思って。だから別府で出た発想なんですね。あれ。

吉川:最初、映った時は衝撃で。。

勝:そうですね。あれは本当、閃いた時は占めた!と思いました。笑

吉川・一尾:あははは

勝:そういう時の制作のモチベーションって良いですよね。これはもうあとは作るしかないって。

吉川:だって鉛筆って凄い身近にありますけどね。ああいう風にものが映るって考えませんよね。凄いなぁって。前も聞きましたけど身体感覚の話を詳しく聞かせて頂ければ。

勝:さっきのSanta Feの話じゃないですけど、鉛筆も、、Santa Feと鉛筆を一緒にするのも、、

一尾:共通体験としてですよね。

勝:そう、共通体験という意味では。鉛筆も身近な文房具として皆の身体の記憶にある道具なので、それで考えたり、創作していくと、その過程を共有しやすいのかなと。鉛筆でこんな事出来んのか!?っていうとこが作品の理解にも繋がるかなっていうのもあるし、だんだんいろんな表現が出てきて、メディアも出てきて、そういうことが当たり前になってきてる、このご時世に今一度、肉筆の身体感覚みたいなのを取り戻すっていう事が大事だと思って。自分の為になってるし、他人の為にも、鑑賞してくれる人の為にもなるだろうと思って、そういう意味でも鉛筆を道具にして作品を作っているつもりなんですね。Santa Feの話と鉛筆の話を一緒にした事は初めてだったので。笑

吉川・一尾:あははは

勝:ちょっと考えてみたんですけど。別府は温泉じゃないですか!共通の身体感覚って。そこになんか似たような心地良さを感じてるような気がして。温泉が別府でのコミュニケーションのしやすさって考えていたのが、「お前もやっぱり温泉好きなんだろ?」みたいのがあって温泉の魅力は知ってるよね?っていう前提があって話すのが、凄く取り戻したいことというか。都会に行くとね、ビジネスチックにコミュニケーションせざるを得ないし、そうするしかないし、まぁいんですけどね。

一尾:人生の中でシャーペンに移った時期とかないんですか?

勝:あります!

吉川・一尾:あははは

勝:シャーペンの時期は高校から使ってました。そこで多分忘れていったんでしょうね。自分としても。周りの環境に翻弄されて。だからデザイン科とか行ってみようと思ったんですよ。そっちの方が将来、職業に繋がるんじゃないかと考えて、美大と言えども一応、デザイン科の方がいんじゃないかって。そして、だんだん本来の感覚を忘れていく。だけどまぁ無意識だったので忘れていったのかもしれないですけど、自覚的になればそれはそれ。あれはあれっていう風に。

一尾:取り戻したいと思ったキッカケは何だったんですか?

勝:うーん、卒業制作、卒業制作ですね。それもデカいんですけど、3m×3mの画用紙に、、卒業制作って大学の教室内で発表するので、ゼミの時期学んでた部屋なんですけど。その教室の壁の一部を3m×3mの範囲を原寸大で描くっていう事して。

吉川・一尾:あぁー

勝:そのまま描いてその場所に展示もするんですけど、ちょっとだけ5cmだけ手前にして。途中からかな、なぜか暗い部屋にしようってことになって。照明の効果とかを狙ってる作品とかもあって。作品自身が発光するものもあって。だからあえて15Wくらいの薄暗い光を当てて、そしたら本当に同化して。だけど確かに分かる紙と壁っていう風になっていて。もう作品はねぇなって通り過ぎる人がほとんどだったんだけど。だけど、それくらいにした事が逆に気付いた時の「うおぉー、鉛筆画だぁ!」みたいなのが凄い嬉しくて、会期中、自分で「うわぁ、鉛筆画だ!」って気付く演技をしてみたりして。笑

一尾:通り過ぎてくと寂しいですもんね。

勝:寂しい。皆、やっぱり通り過ぎていくから。7~8割、下手すりゃ9割通り過ぎちゃうんで。やべぇなこれは、と思って。実は在学中は本当に何となく過ごしてて、大学3年生の時に俺は今、凄い恵まれてる環境にいるって自覚して、大学でなんかやっとかないと絶対損だと思ったて贅沢な話ですけど、サッカーのせいで大学生活棒に振る所だったんですけど、気付いて3年の途中から大学の芸術祭でちゃんと企画に参加して作品を作るっていう事をやりだして。そこから徐々に美大生としてのモチベーションが急に上がって、卒業制作まで行くんですけど、全然評価はされてなくて周りの同級生にも観る必要のないやつ、と思われていて。笑

吉川:そんな、、

勝:まぁ、そうだったんですよ。サッカーしかしてないし。笑。そこそこ課題をこなしてるだけだし。で、3年の途中から「どうやったら、どうやったら」ってもがきだして、苦しみ出すんですけど。初めてどっかで聞き齧った手法とか何かの真似事じゃなくて、自分の出来る事で問題に立ち向かう事が出来る事に気付くのが卒業制作だったというか。最初はデザインっぽい手法で制作しようとしてて、例えばその教室の壁を直接描くところまでアイディア出てたのに、それを紙を宛てて焼きごてで写し取るとか言って。焦げ目を紙につけて後ろに宛ててる表情を写し取るみたいな事をしますって先生に言ったんですよ。

うちの先生、卒業制作で「それでいけ!」ってGoサインを出さないで有名な先生で卒業制作展が1月末にあるのに、年超えても出さないみたいな、先生で。僕もそれまで何案も出してたけど最後にその案を出した時に、「そんな事せずに描くんだよ!」って言われて、デューラーのようなでっかい細密画があって、絵なんだけど、「これが絵でございます。」っていうんじゃなくて道端の雑草をかなり細密に描いてるんですけど、それ指差して「描くっつっても、こんぐらい描くんだぞ!出来るか?」って言われて。でもそれだったら、出来るなって思ったんですよ。自分の出来る事だって。それで目が覚め始めて「やります!」って言って、やってるときも疑いなく、これは凄い物になるんじゃないかと思って、、っていうより何か、自分の手法で立ち向かう事はやっていい事だったんだな、みたいな。

そうだよね、なんでそれをしなかったんだよ?みたいな。戸惑いみたいなのを卒業制作で感じて、取り戻すと。取り戻す初体験をして、そっからそれを続けています。

勝正光 Katsu Masamitsu

1981年 大阪出身

鉛筆画を特徴とする画家。武蔵野美術大学空間デザイン学科卒業

(杉本貴志ゼミ賞受賞)後活動を始める

2006年 GEISAI#10銅賞、佐藤可士和賞、電通賞を受賞。

2008年 第11回岡本太郎現代美術賞展(神奈川県/川崎市岡本太郎美術館)。

2012年 勝正光個展(大分/湯布院駅アートホール)他展覧会多数。

2009年4月~6月の「わくわく混浴アパートメント」(別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」関連企画。大分県別府市)参加を機に、会場となったクリエイターが集まる「清島アパート」に住居を移して今年で5年目になる。

アートの専門性と日常生活が入り混じる場を作る為、奮闘中。

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