大分の中心市街地、五番街にひっそりと佇む小さな老舗映画館、シネマ5。
メジャーな映画ではなく、いわゆるミニシアター系の映画を上映している映画館だが、その映画選びは個性的。
一時期東京でも流行った、ファッション的要素の強いミニシアターではなく、どこか日本の奥ゆかしさを秘めている。
個性的な映画選びだが、ちゃんと幅広い層が楽しめるようにもてなしてくれる。
そして何より空間が素晴らしい。
そのシネマ5副支配人である大西さんにシネマ5&シネマ5bisで上映される映画の中で超個人的にオススメな映画を紹介して頂く、映画の一刻(ひととき) ~日常とシネマの旅~。
今回の旅は、『イマジン』
どうぞ、お楽しみください!
第十便『イマジン』
「映画の一刻」ついに10回目、リスボンの旅へ。
小さめの黒いトランクを引きずって、石畳をゴロゴロ転がしながら、趣のある街並みを歩きましょう。風を感じ、車の音と路面電車と人々が行き交う雑踏の中にかすかに潮の香りをかぎわけながら。
そう、映画『イマジン』は空気を感じながら始まります。
映画が始まって、スクリーンの前にいるのに、私は風に吹かれていました。
あれ、この降りそそぐ太陽の光は、、
そうだ、18年前にそこに実際に立ったことのある風景•••リスボンだ。
小さいリュックひとつで夜行列車と超長距離バスとに乗ってたどり着いた憧れの街 リスボン。
25か26歳の時に見たヴィム•ヴェンダースの映画「リスボン物語」が大好きで、いつかポルトガル、リスボンへ行きたいと思って格安長時間長距離の旅の果てにたどり着いたリスボン。
そして、そこにはこの映画『イマジン』と同じ風が吹いていた。同んなじ光と街の音が聞こえていた。
今だに変わらない。。。あぁ、懐かしい。
そんなことを思いながら映画『イマジン』の旅に迷い込みました。
映画の中では盲目の男の靴音がタップダンスのように響き、周囲の建物と共鳴して音が戻ってくるのがわかる。
古い木のドアが見えてくる。犬が舌を出してハァハァ言っている。男が不意にドアを開けると、ドアのすぐ向こうにもうひとり、男が立っていた。「ノックした?」とドアを開けた男が訊ねると、ドアの向こうに立っていた男は、誰もいないのがわかっていたから声をかけなかった、と言う。そう、この男は盲目で、音を聞きながら周囲の状況を感じ取っていた。ここは、いろんな国から集まってきた盲目の子供たちを預かる学校。そこへ白い杖を持たなくても感覚を研ぎ澄まして、動き回れるすべ(反響定位)を教えるために男はやってきた。
コップに水を入れる。
音を聞きながらコップから水が溢れないところでそそぐのを止める。
これが盲目の子供たちには難しい。けれど、コップの淵に指をあて、溢れた水が指をつたう感覚。これが楽しい。クイズでもしているように夢中になっている。
学校は古い修道院の中にあり、住居もこの中にある。男は自分の部屋に荷物を置き、窓をあける。隣の部屋には、引きこもりがちの盲目のドイツ人女性が住んでいる。女性はいつも窓辺に来る鳩を追い払い、小鳥にパンくずをまく。
その音で様子をうかがっていた男はちょっとしたイタズラを思いつく。。。
音をめぐる人間模様がこの石造りの修道院と石畳の街で、サワサワと繰り広げられる。
なんだか風に吹かれて散歩したような気分で、映画を見終わった。
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私の日常から
映画の開演時間に間に合うようにシネマ5の受付でお客さんを待っていると、
不意にアスファルトの土埃のような、土の湿った匂いが階段のしたから、ふわっとした。
キュッキュッと靴を鳴らしながらやってきたお客さんの服には
小さなドット模様が入っている。
「雨、降り出しましたか?」
いらっしゃいませを言う前に、ついつい出てしまった。
見ず知らずの、きっとシネマ5に久しぶりにやってきたお客さんは、ちょっとびっくりした風で、でも
「はい、降り始めましたよ。」
と返してくれた。
私は、こういう瞬間がとても好きです。
ただ見えること、ただ聞こえること、だけではないものを一気に一緒に感じているとき。
この『イマジン』を盲目の男女の淡いラブストーリーのようにとらえる人もいるだろうけれど、私はその街や風や匂い、この世界に恋している映画だと思いました。
石畳の府内5番街を通って、
シネマ5へ風を感じにいらっしゃいませんか?
『イマジン』
監督|アンジェイ・ヤキモフスキ
出演|エドワード・ホッグ、アレクサンドラ・マリア・ララ
配給|マーメイドフィルム
105分
http://mermaidfilms.co.jp/imagine/
【上映期間】
2015.6.20(土) – 6.26(金) 1週間限定上映
【上映時間】
14:10〜16:03 18:45〜20:38
【会場】
シネマ5
大分市府内町2丁目4-8
TEL 097-536-4512 / FAX 097-536-4536
オフィシャルサイト http://www.cinema5.gr.jp