映画の一刻 ~日常とシネマの旅~ 第1便『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』2014.9.6sat – 9.19fri @シネマ5bis

大分の中心市街地、五番街にひっそりと佇む小さな老舗映画館、シネマ5

メジャーな映画ではなく、いわゆるミニシアター系の映画を上映している映画館だが、その映画選びは個性的。

一時期東京でも流行った、ファッション的要素の強いミニシアターではなく、どこか日本の奥ゆかしさを秘めている。個性的な映画選びだが、ちゃんと幅広い層が楽しめるようにもてなしてくれる。

そして何より空間が素晴らしい。

先日、「複製された男 」R15+ (8/30 – 9/5 20:45~上映)という一度観ただけでは、理解に苦しむ映画を観に行った時には女子高生からお爺ちゃんまで観に来ていた。

なぜ、この映画に?と一瞬思ったが、そういう不自然が自然に起こりうる空間。

半券を受け取り、中へ入ると外の世界から断絶され、独特の空気と匂いが全身を包み込む。

キネット社(フランス)製の赤い椅子に腰掛ける。

開演前、ゆっくりと上がっていく緞帳の音がなぜか懐かしく、心地いい。

前にYadorigiでシネマ5副支配人の大西明美さんにインタビューをさせて頂いてから、シネマ5&シネマ5bis合わせて既に三度、足を運んでいる。

2時間ほど時間が空くと大西さんに今やっている面白い映画を聞く。

話を聞くと、どれを観ようか迷うくらい、どれも面白そうに聞こえてくる。

正直、迷惑な程に、、

それほど、大西さんの話には気持ちがあり、説得力がある。

だから例え、支配人の選んだ映画でもズバズバ切る。

こんな面白い話を一部の人の特権にしておくのはもったいない!

そんな想いから始まった本企画。

映画の一刻(ひととき) ~日常とシネマの旅~

大西さんにはシネマ5&シネマ5bisで上映される映画の中で超個人的にオススメな映画をYadorigiで紹介して頂きます。

最初の旅は、「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」

どうぞ、お楽しみください!

大西明美さんへのインタビュー記事はこちら。

 

第一便「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」

 

私の働いている映画館シネマ5&シネマ5bisは、劇場の椅子に体を埋めると、日常から解放され、あるいは思いがけずその世界に飲み込まれてしまう異空間、タイムマシンなどと呼んでもいい空気感があります。そして劇場を出ると日常に帰る。その2つの世界を行き来する中から感じたことを、これからここに書いて行こうと思います。

第一回目のシネマの旅へご案内するのは、『大いなる沈黙へ』その名のとおり、沈黙の世界。

私たちは、一日のうちどれくらいの会話をしたり、聞いたりしているでしょうか。音や言葉、情報が溢れる私たちの日常から、それが一切ない世界に身を置くとしたら。その静寂の中にどのくらい現代人は平気でいられるのでしょう。

この『大いなる沈黙へ』は、フランスアルプス山脈に立つ、伝説の修道院グランド・シャルトルーズに始めてカメラが入り撮影したものです。撮影の条件は音楽なし、ナレーションなし、照明なし、修道院の中に入っていいのは監督一人のみ、というものでした。このグランド・シャルトルーズ修道院はカトリック教会の中でも特に厳しい戒律で知られ、修道士は毎日礼拝堂で祈りを捧げ、自給自足で藁のベットとストーブのある小さな独房で日に何度も祈りを捧げる生活を何世紀にも渡って送っています。日曜日の昼食後、散歩の時に4時間だけ会話が許されるのみです。そこにこの映画の監督はひとり、修道士と同じ生活をしながら一日のうちのわずかな時間を撮影にあて、集積した沈黙がこの映画です。

この映画は見るものに何も要求しない、押し付けない。あるのはただ窓から差し込む光が埃を照らしキラキラと輝き、影がその静寂を際立たせる。まるでフェルメールの絵が動き出したような美がそこに存在するのみです。静寂と美があるのみの世界。孤独を感じるかもしれません。でも、孤独とは本来、美しく心豊かなものなのではないかと思います。いまや、それは日本の現代社会で日常に邪魔されない貴重なひとときとは、映画館の暗闇でしか体験できなくなっているように思います。

 

・・・・・・・・

主の前で 大風がおこり、山を裂き、岩を砕いたが

主は おられなかった

風の後 地震が起こったが

主は おられなかった

地震の後 火が起こったが

主は おられなかった

火の後 静かなやさしい

さざめきがあった

(列王記 上 19章11節ー12節)

映画の冒頭、暗闇の中にこの文字が浮かび上がります。

私が最初にこの文字を目にした時、まさに今の日本がこの言葉の途中にいるような気がしました。(そう、まだ途中。あの震災の傷はまだ癒えていない)まるで、日本を予言したような言葉に思えました。

この作品は1984年に撮影の申請をし「まだ早い」と言われ、16年後に撮影の許可が降りる。それから準備に2年、撮影に1年、編集に2年をかけ、構想から21年後に完成したドキュメンタリー映画なのです。すでに2005年に海外では公開され大きな反響を呼んだ作品です。

先日映画会社の方に聞いた話ですが、今から約10年前、日本の映画配給の方がある映画祭でこの映画を見て日本公開しようとしたのですが、上映劇場がうまく見つからず、公開はそのままになってしまい、昨年になり日本での上映劇場が決まり日本公開に漕ぎつけたということでした。海外の公開からほぼ9年を経ての、日本公開。それが2005年ではなく、震災を経験した今の日本だということに何かを感じてしまいます。

・・・・・・・・・

 

この映画『大いなる沈黙へ』は2時間49分。みなさまはこの時間を今の生活の中から切り離せますか?もし、「日常に追われて無理」という方、そんな方ほど、暗闇の中での沈黙の旅をおすすめします。

 

 

『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』

http://www.ooinaru-chinmoku.jp

 

【上映期間】
2014.09.06(土) – 09.19(金)

【上映時間】
2014.09.06(土) – 09.12(金)は
13:50 ~ 16:42、19:15 ~ 22:07

09.13(土) – 09.19(金)は
13:30 ~ 16:19

【会場】
シネマ5bis
大分県大分市府内町3丁目7−7
TEL 097-536-4512 / FAX 097-536-4536
オフィシャルサイト http://www.cinema5.gr.jp

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