大分の中心市街地、五番街にひっそりと佇む小さな老舗映画館、シネマ5。
メジャーな映画ではなく、いわゆるミニシアター系の映画を上映している映画館だが、その映画選びは個性的。
一時期東京でも流行った、ファッション的要素の強いミニシアターではなく、どこか日本の奥ゆかしさを秘めている。
個性的な映画選びだが、ちゃんと幅広い層が楽しめるようにもてなしてくれる。
そして何より空間が素晴らしい。
そのシネマ5副支配人である大西さんにシネマ5&シネマ5bisで上映される映画の中で超個人的にオススメな映画を紹介して頂く、映画の一刻(ひととき) ~日常とシネマの旅~。
今回の旅は、「毛皮のヴィーナス」
どうぞ、お楽しみください!
第四便「毛皮のヴィーナス」
今回のシネマの旅は、ある劇場の舞台の上。
シネマ5の怪しいピンクの緞帳が、カーテンの皺を作りながら真上に上がっていくと、さあ、始まりです。皆様をパリの舞台へとご案内いたします。
オーストリアの小説家L・ザッヘル=マゾッホの「毛皮を着たヴィーナス」(作者マゾッホの名から「M−マゾ」の語源ともなった)を舞台化する、その脚本家が主人公です。元の原作を映画化したのではなく、原作を舞台化するのを映画化したものがこの作品。従来の映画とは違う演出があり、すばらしいエンターテイメントに仕上がっていて、(多分誰が見ても)唸るほど面白いです!!
映画は、世界のいろんな場所、いろんな空間がそのまま現地ロケによって映像として映し出され、私たちはそれを実際に「見る」のですが、舞台は逆。その空間に空想上の世界を観客の空想力によって見いだしてゆきます。
さあ、映画が始まります。空想してください。
雷の鳴る激しい雨の中、“「毛皮のヴィーナス」オーディション”と書いた張り紙のある劇場のドアを開け入ってゆくと、舞台に脚本家らしい男が電話で何やら文句を言っています「そんな女はいないんだよ。・・・35人のバカ女優とあったが、売女かレズにしか見えない」とかなんとか。振り返るとびしょ濡れの女が立っていて「遅すぎた?」と聞く。すでにオーディションは30分前に終わり、脚本家も帰るところだ。が、その女は彼を強引に引き止め、濡れた服をするすると脱ぎ—SMクイーンのような黒い皮のコルセットと膝上まである黒いブーツその下は真っ黒な下着…、脚本家はちょっとどぎまぎする。女に言われるままに、しょうがなくオーディションを始める男が振り返ってそこに立っていたのは、さっきまでとは別人のような品のある佇まいの婦人。
こうしてこの舞台上で繰り広げられるのは、演劇の中の女と男、はたまた、現実の女優と脚本家。けれど現実の現実は、これは映画。ここに「現実の女優と脚本家」を演じる女優と男優がいて、役を演じ分ける彼らを見つめる観客(私たち?)の視線が、彼らを存在させていきます。ややこしくなってきた。そうなんです。このどれを誰として見ているのかが、わからなくなっていくあたり、見ている私たちもスクリーンの中で存在し始めているようです。そして、この映画の物語は、服従するものが支配するようになり、支配するものが奴隷となっていくかのような微妙な関係の揺れを、観客は楽しんでいきます。
そして、小説、を舞台化する脚本家、を映画化するロマン・ポランスキー監督もまた、ある意味「マゾ」的な実人生を歩んできた人でもあるのです。これは、この『毛皮のヴィーナス』公開の1週間前にシネマ5で上映する『ロマン・ポランスキー 初めての告白』をご覧になるとより深く楽しめるはずです。
今回の日常を逸脱して映画館の暗闇で、我を忘れてしまうシネマの旅。
絶対、オススメです。(クリスマスにもぜひ)
【お知らせ】
シネマ5とカモシカ書店&BunDoku(読書会)のコラボイベント「BunDokuシネマカフェ」の開催をカモシカ書店にて予定しています。
詳しくは、シネマ5、カモシカ書店、BunDoku(読書会)それぞれのfacebookで告知します。
もうひとつ!
12月18日(木)夜8:50『ロマン・ポランスキー 初めての告白』では、上映後にカモシカ書店の岩男晋作さんとBunDoku(読書会)のフェシリテーター志水健一さんの「映画夜話」をシネマ5で開催します。お楽しみに。
『毛皮のヴィーナス』
http://kegawa-venus.com/
12月20日(土)より、シネマ5にてロードショー
【上映時間】
10:00〜11:45、12:00〜13:45、16:20〜18:05、18:20〜20:05
終了日はシネマ5へお問い合わせ下さい。
『ロマン・ポランスキー 初めての告白』
http://mermaidfilms.co.jp/rp/
12月13日(土)〜19日(金) 1週間限定上映
シネマ5にて、毎夜8:50のみ上映
【会場】
シネマ5
大分市府内町2丁目4-8
TEL 097-536-4512 / FAX 097-536-4536
オフィシャルサイト http://www.cinema5.gr.jp